相談員試験経験者優遇が後継者難の原因 第28回・地方消費者行政 専門調査会 鈴鹿亀山消費生活センターからヒアリング

 消費者委員会の下部組織である地方消費者行政専門調査会(座長・新川達郎同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)は2020年2月日、第回会合を開催した。 今回は地域連合による消費生活センターとして、全国初の「鈴鹿亀山消費生活センター(三重県鈴鹿市)」の中川勝規センター長からヒアリングを行い、委員と意見交換を行った。 同専門調査会は年後、年後を見据えて、新たな消費者行政の形、消費者行政分野における公・共・私の相互の連携、在り方等について検討を行っている。同センター長は、 中央からは見え難い地方の消費者行政の現場から重要な課題を発信し注目された。以下でその概要を紹介する。
全国で初の広域連合の消セン
 同センターが設立されたのは2006年4月。設立の経緯は1999年に翌年の介護保険制度の発足に向け、鈴鹿市、亀山市、関町の2市1町間で「鈴鹿亀山地区広域連合」を設置 (その後、2005年に旧亀山市と旧関町が合併)。ここで取組むべき課題が検討され、消費生活相談事業もその1つに挙げられた。折しも架空請求が全国的な社会問題化しており、 両市で消費生活センター設置の必要性が高まっていた。そこで両市で共同設置する方が、経費、相談員の確保、啓発活動において効果的と判断、全国初の広域連合による設立となった。 活動状況は、2018年度の相談件数が1623件で初年度(2006年度)より3割増。このうち歳以上の相談は446件と初年度の2・8倍となった。相談体制は専門相談員3人(嘱託)と所長 (行政職員)1人の4人体制。
出前講座は会場の開拓が鍵に
 出前講座も積極的に行っており、2018年度は103件を実施。講座内容は①「皆で防ごう悪質商法!」②「墓じまい」「薬と健康食品の正しい知識」③「賢い買い物の仕方」 ④「地震!台風!交通事故!もしもの時に役立つ損害保険」⑤「明日を楽しく生きるためにエンディングノートの活用法」⑥「お金の話」⑦青少年向けの「消費生活講座」など。
 同センター長は、出前講座を開催するに当たって留意すべきこととして次のように指摘。「視聴者は消費生活センター(の人)から振込詐欺や悪質商法の話を聞くために、 わざわざ会場に出向いて来るのではない。地域で定期的に開催される老人会の『あつまり』や『サロン』に、私どもの方から事前に申し込んで、視聴して戴く時間を割いて戴くことが必要になる。 つまり、これらの催し物の場に如何に入り込み、その場の視聴者から『役に立った』、『もう一度、聞きたい』、などと感じてもらえる内容の話を如何に提供できるかが鍵になる」。更に、 講座開設の意義については、「消費生活センターの周知を図り、相談件数を増加させ、注意喚起をはかる。そして消費者教育につなげていくこと」。 「重要なのは高齢者、障がい者、更に認知症等の方の消費者被害の早期発見である」とし、「こういう方々は自分からは相談に来ないので、相談に来る前に如何に早期発見できるかが大事、 お金を払ってしまってからでは遅い、いくら相談をしようがお金は返ってこない。そういう前に何とか早期発見したいという思いで実施している」とした。
消費者教育も相談員の仕事
 一方、出前講座には課題もあるとし、「未だ1回も開催していない地区が多い」こと、そして「教育機関(特に教育委員会)との連携が進んでいない」ことをあげた。 又、消費者行政職員や消費生活相談員の中には「未だに消費生活センターは、待っていて相談を受け付け、苦情処理の斡旋を行う所という意識が根強い。この辺りを、『それだけではない。 消費者安全法8条2項の1~3号だけが相談員の仕事ではない。4条6項に規定する消費者教育の推進も消費者相談員の仕事である』旨の認識をしっかり持つことが重要」とした。
インターシップ制度の導入を 
 10年後、20年後への対応策へのアイディアとして、現状の「相談員の高齢化と人材難への対応」が必要として次のように指摘。「これが進むと新たに出てくる商品・サービス、 ネット社会への対応が困難になる。又、制度改正への対応も難しくなる。抜本的な対策が必要である」。対策としては「経験のあるベテランの相談員を重視するよりは、むしろ若手(40歳代 から50歳代を念頭に置く)、ベテラン、それに消費者教育担当をバランスよく配置することが理想的」とした。その上で、相談員を募集しても中々集まらない現実を指摘。 これでは「持続可能な消費者行政は困難になる」とし、集まらない原因の1つに「相談員の資格試験が難しく、現役の相談員でなければ合格するのが難しい」とし、その打開策とし 「インターシップ制度(就業体験制度)の導入」を提案した。それは「相談員の席は空いているのであるから、希望者があれば入れて、そこで1年間勉強してもらい、 資格は後で取ってもらうという資格の後付け制度もあり得る」との考えによる。この考えは教育コーディネーター制度にも当てはまる旨も指摘した。
 更に、消費者行政(消費者庁)側の問題として、都道府県の消費者行政部局への「消費生活相談員の任用」に関する通達で「専門的知識、技術、経験を鑑みた任用及び処遇改善をご検討」 などと経験者優遇の考えが根強いことを指摘。このことが後継者育成の障害になっているのではないかとし た。「行政職員は人事異動によって短期間で変わっていく。他方、相談員はそのまま据え置かれる。このことが高齢化に拍車を掛け、そしてある日、突然、辞めていく」とも指摘。 現場からの強い警鐘といえる。
(続きは2020年3月12日号参照)