シリーズ・特商法改正 来年解禁か、法定書面の「デジタル交付」

消費者庁「電子化する方向」、内閣府WGで回答対象は特定継続役務、訪販・連鎖は「検討中」
ダイレクトセリング(DS)業界の念願だった、法定書面の「デジタル交付」が来年にも解禁≠ウれる可能性が出てきた。急展開が起きたのは、 規制改革を話し合う内閣府のワーキンググループ。特定商取引法が通信販売を除く6取引類型に求める紙の書面の交付義務について、 新型コロナウイルス問題を背景とする取引の急速なオンラインシフトなどを受け、メール等の電磁的手法による交付を認める法改正に着手する考えを 消費者庁が示した。ただ、その対象は、現時点で特定継続的役務提供に限定され、訪問販売と連鎖販売取引も含まれるかは不透明。 クーリング・オフの申込み方法、起算日をどうするかといった課題も残す。
通常国会が濃厚
 特商法における法定書面の「デジタル交付」を解禁≠キる方向性が示されたのは、11月9日に開かれた内閣府の第3回 「成長戦略ワーキング・グループ」(以下WG)。この日の議題は「特定商取引法の特定継続的役務提供に係る契約前後の書面交付の電子化」。 特定継続的役務提供(以下特役)で概要書面と契約書面のデジタル交付を可能とするように求める意見に対し、消費者庁から 「デジタル化を促進する方向で、適切に検討を進めてまいりたい」との回答書が提出された。
▲11月9日の内閣府「成長戦略ワーキンググループ」で、
   特定継続的役務提供における概要書面と契約書面の
   デジタル交付の解禁を求める意見に対し、
   消費者庁審議官が特商法の改正によってメール等による
   交付を認める旨を回答
  (写真は出席事業者によるプレゼンテーション資料)
 WGの質疑応答でも、同庁の片桐一幸審議官が「消費者庁としてこの書面について電子化する方向で検討したい」 「デジタル化する方向で検討を進めさせていただきたい」と返答した。
 周知の通り、特商法は紙の書面とメール等の電磁的記録を別のものとして書き分けており、条文で書面と指定された場合、 PDFなどデータ形式の書類は含まれない。デジタル交付を可能とするには法律本体の改正が必要となる。
 法改正のタイミングはいつになるのか。
 現在、消費者庁は、8月に報告書をまとめた「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」の提言に沿って、 来年の通常国会への特商法改正案提出を目指している。WGで審議官は「直近の法改正の機会を捉えて早急に対応してまいりたい」と返答。 特商法を所管する同庁取引対策課は、取材に「現在、具体的に制度設計を行っているところ。現時点ではまだ決まっていない」と明言を避けたが、 WGで早急な対応を述べた以上、来年通常国会での改正が濃厚と言えそうだ。
出席者に新経連
 一見、急浮上したようにも見えるデジタル交付解禁の方針。背景には、WGに出席した経済団体や政府の意向がうかがえる。
 WGには、オンラインで英語学習サービスを提供する事業者が出席。講師を募集したところ、コロナ下で職を失ったツアーガイド等から 応募が殺到した経緯に触れ、デジタル交付が可能になれば雇用とサービスの促進につながると強調した。現行法の下では、 契約書面が郵送で顧客に届くまでクーリング・オフの起算日が無期限に伸びる問題なども訴えた。
 もっとも、この事業者は2年前に設立されたばかりのベンチャー。求人情報によれば従業員数は10人と小規模だ。
 一方、この日のWGには新経済連盟(以下新経連)が同席。これまでにも与党の政策会合や行政の有識者会議で積極的に提言、 働きかけを行ってきた有力な経済団体となる。
行革相が推進表明
 直近では、11月6日の自民党デジタル社会推進本部と同10日の同党行政改革推進本部役員会で、デジタル化社会のための規制改革を提言。 ここで対面や書面交付、押印の原則の「完全撤廃」を求め、アナログ原則撤廃一括整備法≠ネる新法も提唱している。
▲法定書面のデジタル交付が解禁された場合、
   紙の書面でしか効果を認めていない
   クーリング・オフのデジタル申請を可能とするか、
   その場合に起算日をいつにするかといった課題に
   道筋をつける必要も
  (写真は消費者庁作成の消費者向けパンフレット)
 10月に行われていた第2回のWGでも、バーチャルによる株主総会参加などを容易とするガイドライン、Q&Aの見直しを経済産業省に提言。 同省より「前向きに取り組んでいく」との回答を引き出している。
「まずは特役」
 特役の書面交付は、現行法で、概要書面を「店舗を訪れた消費者に対して、役務内容等の説明とあわせて交付する」こと、 契約書面は「特段の事情がない限り、契約の締結を行ったその場で交付する」ことを求めている。 オンラインで契約に至った顧客へデジタル交付が可能となれば、その恩恵は大きい。
 では、DS業界の二大形態である訪問販売、連鎖販売取引でもデジタル交付が解禁される可能性はあるのか。
 書面交付の方法や法定記載事項、記載の仕方は、通販を除く6取引類型の間で大差はない。特役で解禁された場合、 他の取引類型でもデジタル交付を可能とすることは制度設計的には難しい話ではないとも考えられる。
(続きは2020年12月17日号参照)