特商法改正と「書面交付の電子化」 消費者の承諾、「明示的」な確認・返答を要件に

口頭・電話のみは認めず、「明示的」の中身は先送り交付方法 
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 4月22日に衆議院で審議入りした特定商取引法改正案。ダイレクトセリング業界が注目する「書面交付の電子化」をめぐり、成立を目指す政府を対案で野党が追及する構図の中、 電磁的交付の要件となる「消費者の承諾」のあり方が政府から初めて示された。口頭、電話のみで得た承諾は認めず、 事業者による確認や消費者の返答・返信は「明示的」である必要があるという内容。承諾を得る際、承諾にともなう効果や送られる書面の内容も明示を求める。 電磁的交付の方法は、ダウンロード用のURLリンクをメール等で送る方法は認めない考えも明らかにされた。一方、どのような手続きを踏めば「明示的」と言えるのか、 その具体的中身について政府は明言を回避。電磁的交付の削除を求める野党の追及を強めている。
異例の対案提出
 野党の対案提出という異例の出だしとなった特商法改正案の審議。過去の改正は、与野党の全会一致による可決が通例。前回の16年改正における衆議院質疑は2日間で終了し、 やはり全会一致で原案通り可決している。
 イレギュラーとも言える対案の理由は、法定書面の電磁的交付を可能とする改正への反発だ。政府が「消費者利益の擁護増進のため」と説明するのに対して、 野党は「かえって消費者被害が拡大する」などとして、電磁的交付関連の改正を削除した対案を提出した(対案の詳細は5月6日号4面記事参照)。
 このため、審議が本格的にスタートした4月27日の衆院・消費者問題特別委員会は、法案の成立を目指す政府と対決姿勢を鮮明にした野党の間で厳しいやり取りが交わされた。
 このような大荒れの審議の中で、電子化の要件に関する重要なポイントが政府から示された。電磁的交付にあたって事業者が得る必要のある「消費者の承諾」と 「電磁的交付の方法」についての考え方だ。
承諾の3要件、示す
 政府の法案は、紙の書面の交付義務が課されている訪問販売や連鎖販売取引など6取引類型について、契約を申し込んだ消費者の「承諾を得て」、 電磁的方法による交付を行うことができるとしている。
 この消費者から得る承諾の内容を?日の委員会で与野党の3議員が質疑(質問者は公明党・古屋範子議員、立憲民主党・吉田統彦議員、日本共産党・畑野君枝議員)。 これに、消費者庁の高田潔次長が以下の3要件を説明した(表参照)。
 示された3要件は、
@「口頭や電話だけでの承諾は認めない」
A「消費者が承諾をしたことを明示的に確認することとし、消費者から明示的に返答・返信がなければ、承諾があったと見なさない」
B「承諾を取る際、その承諾によってどのような効果があるのか、どのような内容が電子メール等で送付されるのかを明示的に示す」
で、これらを政省令・通達等で規定する旨が述べられた。
「建議」を取り入れ
 高田次長が示した3要件のうちAおよびBは、消費者委員会が2月4日に発出した建議で求められていた内容と重なる。
 建議では、消費者から得る承諾を「実質化」する必要があるとして、「承諾は真意に基づく明示的なものでなければならず、 安易に承諾が取得されないための手立てを講ずる」「承諾前において承諾の効果等について十分な情報提供がされ、 消費者が承諾の効果等を理解した上で承諾するように措置を講ずる」ことの2点を求めていた。次長の答弁は、この要請を政府として取り入れる方針を示した形となる。
▲特商法改正案の審議が本格的に始まった
  4月27日の衆院・消費者問題特別委員会で、
  高田潔消費者庁次長が、法定書面の電磁的交付の
  前提となる「消費者の承諾」取得のあり方について
  3要件≠説明
 ただし、政府から示された3要件によって、新たな論点も浮上。承諾の確認と消費者からの返答・返信を求めるAと、 承諾の効果・送付内容をあらかじめ示すことを求めるBで触れられた「明示的」というワードが、具体的にどのような手続きを指すのかという問題だ。
消費者の認識、優先
 「明示的」というワードが意味するところを質疑した議員に対して、高田次長は「承諾したことが明確に分かるということ」 「(議員の)意見を踏まえたうえで明示的をどうするか慎重に判断する」などと答弁。続けて、「紙とかに書いてもらうことが入るのか」と聞いた議員に、 「紙の承諾の取り方、それ以外の取り方、いろいろ考えられる」とも応答。デジタル化を目的とした改正にアナログな要件を持ち込む含みを持たせた。
 さらに、契約を申し込んだ消費者本人が承諾したか定かでないケースの扱いについては、事業者サイドに不安を抱かせる答弁も。
(続きは2021年5月13日号参照)