社説 連鎖販売の自主行動基準 改訂より実効性の確保を

日本訪問販売協会は、「連鎖販売取引に係る自主行動基準」の一部改訂を検討している(本紙・5月16日号で既報)。 訪販協は、その趣旨を訪問販売協会世界連盟(WFDSA)の世界行動基準の改訂に伴うものとしている。 しかし、現在の連鎖販売取引の市場環境に照らせば、このような改訂よりは現行の行動基準の実効性確保のための取組みを急ぐべきである。
今回の改訂案として示された内容には、一部を除けば既に包括規定として現行基準に盛り込まれていると考えられるものが少なくない。 又、先行き問題となりそうな内容も見受けられる。例えば、「単に他の者を販売システムに加入させることだけでは報酬は得られないことについて 説明を行うよう指導に努める」は、同様の内容が「禁止事項」として規定済みである。 又、「販促資料等の作成・使用、ダウンライン等への販売等」に係るルールは、既に多くの統括企業が独自に事実的に運用しており、 新たに設ける必要性は乏しい。更に、海外で会員企業に係る苦情が発生し、当該国で解決が困難な場合「当協会がその解決に係る業務を実施する」 としているが、実際に問題が発生した場合、手段・方法、それに要するコストはどのように担保するのか。 これらに関する取決めが未確定なままルール化するのは拙速であり、大きなリスクを伴う。
そもそも我が国では、連鎖販売取引については法令で世界的にも類を見ない程厳しい行為規制が設けられているとされてきた。 訪販協の同行動基準には法令を上回る厳しい内容が盛り込まれている。従って、WFDSAが行動基準を改定したからといって、 それに平仄を合わせる形で、改訂を急ぐ必要はない筈だ。
それよりも訪販協が今、取り組むべきは、同行動基準が会員企業においてどのように運用されているかについて、実態を把握し対策を打つことである。 今、連鎖販売取引の現場で最も悩ましい問題の一つと見られるのは、過剰在庫の横流し問題だ。同行動基準では「在庫の適正化」という項目を設け、 「在庫量に係るチェック管理体制を確立し、適正在庫に努める」旨の規定を設けている。
現況、この規定は多くの統括企業において遵守されていない。連鎖販売取引の現場では、販売組織に加入した会員(以下「販売員」)が、 組織内での資格の維持や昇格を意図して統括企業から仕入れた(購入した)商品を自らの力量で捌けずに過剰在庫となり、 ディスカウント・ショップ(DS)に横流しされ、そこから販売員の仕入れ価格を下回る価格で一般消費者に販売されている。 これらDSの中には、販売員の将来の過剰在庫を見越して買取りを事前に予約するところまで現れている。
無論、統括企業は過剰在庫の発生を防止するために、事前・事後的に種々対策を講じている。 しかし、厳格に取り締まると売上高に影響するというジレンマがあり、実効性が確保されていない。 現状放置は、統括企業としてのガバナンスを問われ、ひいては業界全体の信頼性に関わってくる。 訪販協は自主基準の外形的整備よりも、この問題の打開策に真正面から取組むべきだ。