社説 フリーランス新法、運用注視を

  昨年11月に施行されたフリーランス新法の運用が早速始まった。公正取引委員会がフリーランスに業務委託する事業者の集中調査を実施。初の行政指導も行った。ダイレクトセリング業界の委託販売員やディストリビューターは原則、新法の保護対象になり得る。現時点で、調査の候補や指導の対象にDS企業は浮上していないが、今後、視野に入る可能性は想定しておく必要がある。
 集中調査は2月5日~3月5日、中小企業庁、厚生労働省と合同で行われた。昨年の実態調査で、フリーランスとの取引に問題事例が多かった9業種が対象。卸売・小売、運輸・郵便、生活関連サービス・娯楽などが含まれ、調査書を送った事業者は3万に達する。新法が求める取引条件の明示や、期日における報酬の支払いの履行状況などについて回答を求めた。
 公取委は毎年度、下請法で同様の集中調査を実施。法令違反事件の情報収集が目的で、違反が確認された場合は、執行が視野に入る。集中調査に回答しなかったり、虚偽の報告を行った場合は罰金が課される。いわゆる業界アンケートなどとは全く性質が異なる。
 3月28日に発表された行政指導は、45の事業者に対して行われた。指導の対象となった主な業種はフィットネスクラブ・リラクゼーション、ゲームソフトウェア、アニメーション制作など。いずれの業種も、フリーランスに現場を支えられている一方で、取引の内容に問題を抱えている。
 フィットネスクラブの指導対象は、インストラクターやグループレッスンの講師、SNSの動画投稿の請負先などとの取引。業務委託の契約を結んだ際に報酬の支払期日を直ちに明示していなかった、業務委託を開始した後に取引条件を示していた、フリーランスによる請求書の提出が遅れた場合に報酬の支払いを遅らせるルールを設けていた――といった法令違反の是正を求めた。
 指導の発表に合わせて、公取委は「違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種について、積極的に情報収集を行い、違反があった場合には、迅速かつ適切に対処する」との声明を出した。情報収集は、フリーランスからの申出を受け付けるオンライン窓口を設置。弁護士会に委託するフリーランス専用の「110番」も稼働している。
 今回は指導だったが、今後、勧告を行うケースも出てくるだろう。新法は勧告について、これを行った場合に公表を行うかどうか、条文で定めていない。事実上、執行部門の裁量に任せている訳だが、公取委は「一罰百戒」を目的として当該事業者の社名を公表する方針を示している。業界は新法の運用の注視を怠るべきでない。