社説 舵取りの難しい時代

  ダイレクトセリング化粧品分野では、老舗企業を新規事業の立ち上げやリブランディングが盛んに行われている。長年にわたって事業をけん引してきた販売員の高齢化と引退、サロンビジネスの伸び悩み、美容業界全般における競争激化など、諸々の要因が背景にあるが、特に次世代のニーズを取り込むためには、従来とは異なるアプローチでブランドを訴求する必要性があるという危機感がある。
 例えばシーボンは、新規事業立ち上げの動きに積極的だ。2016年6月、オーダーメイドウィッグの販売を開始し、メーンの会員層であるミドル世代以上の女性のニーズを汲んだサービスを提供している。グループのヘアサロン「neaf」と連携し、1人1人に合わせたフルオーダーメイドのウィッグという独自性によって、現在も事業を継続している。2021年9月には、結婚相談所「シーボン マリアージュサロン」を東京・六本木に開設したが、こちらは競合とのバッティングや、マッチンアプリへのニーズシフトなどを背景に業績が伸び悩み、2023年8月で撤退。その後、2024年1月にはコスパ・タイパのトレンドを反映させたヘアケア事業を立ち上げ、首都圏で店舗を展開。新規事業はそれぞれ浮沈があるものの、女性をターゲットとし、美容に関連づいた分野が共通点だ。本業の化粧品事業が伸び悩む中、何とか事業基盤の強化を図りたいという意向がみえる。
 御木本製薬が新規事業として立ち上げが化粧品ブランド「LINK+U」も、事業継続のための模索の一環という側面がある。同社は「ミキモトコスメティックス」ブランドでの化粧品販売だけでなく、OEM・ODM展開も行っており、ここ数年の業績は堅調だ。新規事業は、主力の「ミキモトコスメティックス」よりも若い世代をメーンターゲットとしており、商品価格も手頃な価格帯に設定し、ECなど購入しやすい販売チャネルで展開していく。SNSを活用した情報発信も行い、「ミキモトコスメティックス」ではアプローチが難しい層へブランド訴求を強めていく狙いだ。
 ダイレクトセリング化粧品分野では、コロナ禍を機にサロンビジネスの弱点が露呈し、大きな転換期を迎えようとしている。さまざまな課題がここにきていっぺんに表出し、対応を迫られているという状況だ。中には、販売組織の次世代への継承がスムーズに行われている企業もあるが、そのようなケースは稀であり、多くの企業が団塊世代の販売員が引退した後、急速に組織が縮小するおそれがある。前述の2社以外にも新規事業に進出している企業もあり、業界全体で事業多様化のトレンドになりつつある。ただし、社会全体で不安定さが増している中新規事業が新たな軸となるか否かは先行きが見通しづらい。難しい舵取りを求められる時代だ。