社説 柔軟性のある施策こそ

 ダイレクトセリング化粧品市場では、ビジネスモデルの新たな変革期が訪れようとしている。コロナ禍によって、それまで安定した顧客接点となっていたサロンの影響力が低下し、代わってECなど新しいチャネルにおいて、それまでアプローチできていなかった層の掘り起こしもみられるようになった。従来型訪販やサロンはこのビジネスの主力チャネルであることには変わりないが、販売員の高齢化や消費者の購買行動の変化を背景に、新たなビジネスモデルの模索を続けている。
 現在、ダイレクトセリング化粧品企業の多くがサロンなどのリアル拠点を展開しているが、同時にECなど非リアル接点をもつケースも少なくない。多チャネル展開によって新しい顧客層の開拓を図る動きは、特にコロナ禍を経て強まっている。最大手のポーラでは、「ポーラ ザ ビューティー」や百貨店など、従来から展開してきたリアル接点に加え、EC、化粧品専門店など新しいチャネルへの展開を進めている。ブランド訴求という意味では、ホテルアメニティなどを展開しているBtoB事業も施策として有効に機能しているようだ。本紙でも触れてきたが、同社は「ポーラ プレミアム パス」(=PPP)によってチャネルごとに管理していた顧客情報を共有化し、ユーザーがどのチャネルからポーラブランドにアプローチしてきても、同じクオリティのサービス等を提供する仕組みを構築した。PPPに登録したユーザーは、非登録ユーザーに比べてリピート率が高いというデータもあり、ブランドへの多様な入口を用意することで、新たなユーザーへアプローチするとともに、既存ユーザーの取りこぼしを防ぐ取組みを行っている。
 ただ、それでも軸となるのはリアル接点であることには変わりがない。例えば、昨年11月に導入したサービス「Shop de Pick」は、ECで注文した商品を任意の店舗で受け取れるもので、同サービスの利用者は、EC申込時より実際の購入金額が平均で30%アップしているという。最高峰ブランド「B.A」でブランドイメージを刷新し、昔ながらの〝訪販化粧品〟からの脱却を図ったポーラブランドだが、高価格・高機能のハイブランドという位置づけはますます強まっている。つまるところ、〝説得商材〟である点は、ドア・ツー・ドアの訪販時代から変わっていないということだ。それが、長年のロイヤルユーザーを多く抱えるダイレクトセリング化粧品の強みであり、同時に〝縛り〟でもある。販売員の高齢化が著しい老舗企業にとっては、それが大きな弱点となって表面化しているようだ。
 確実にニーズをとらえる「次の一手」を見出すのが困難となった現在、新しい施策に挑戦する柔軟性がますます重要なのかもしれない。