社説 業界と特商法、大きな過渡期に

 幾度もの過渡期を迎えたダイレクトセリング業界。その度、マイナスの事象の多さが際立ち、市場縮小を余儀なくされた。ここ数年は、コロナ禍を経た社会の変容やAIの台頭に代表されるDXの急速な進展などにともない、業界を取り巻く環境の変化がさらに加速。業界を縛る特定商取引法でさえも、消費者法制度の〝パラダイムシフト〟の流れの中で、存在価値を変える可能性が高まってきている。
 業界の市場規模がピークを迎えたのは96年度。日本訪問販売協会の「売上高推計値」で3兆3400億円に達した。その後の約30年は坂を下り続け、23年度の推計値は1兆4502億円に。往時の半分以下に縮小した。24年度の推計値も減少したと推測される。
 マイナス成長の背景には複数の要因があげられ、複雑に絡み合う。言われて久しいのが販売現場と顧客の高齢化。40~50歳代であっても、業界内では比較的若い層と受け止められることが少なくない。過去20年ほどは成長を続けるECに押されてきた。業界ならではと言える商材の開発・差別化も難しさを増した。近年は、労働者人口の減少を背景とする売り手市場や所謂ギグワークとの競合などを受けて、現場のマンパワー不足を聞く機会が増えた。
 もちろん、対面による口コミが強さを失ったと考えるようなことは早計にすぎる。どれだけ時代が変わっても、人と人の関係がもっとも重要となることは疑いがない。一方で、現代のネット社会は、望むと望まざるとに関わらず、玉石混合の情報が洪水のように押し寄せる。その段階で、購買にかかわる消費者の選択がある程度固まることとなる。ダイレクトセリングのアプローチは後手に回り、対面の強みを発揮する機会を得られない。そもそもの接点作りの再構築がつきつけられている。
 そして、あらゆる業法の中でもっとも厳しいと言える特商法。執行権限や不招請勧誘規制の強化、規制範囲の拡大、行政・刑事罰の引き上げなどを繰り返し、業界の頭を抑え込んできた一方で、2年前の「書面電子化」は業界に何の変化ももたらさなかった。
 しかし、行政にとって大きな武器となってきた特商法も、社会の変容にともなって、ストレートに適用をできる場面を減らし、以前に増して屋上屋を重ねるような改正が目立つようになった。法解釈で乗り切る限界を露呈しつつある。
 このため、特商法を含む消費者法制度を抜本的に見直す〝パラダイムシフト〟の議論が3年前に本格化。今夏にも、方向性を示す報告書を消費者委員会がまとめる。特商法は継続されつつも、これを包括する更に上位の法体系が目指されている。市場と法の両面において過去にない過渡期を迎えている。
(2025年6月5日号)