社説 改革阻む〝レガシー問題〟

 ダイレクトセリング化粧品分野では、コロナ禍で多くの企業が業績不振に苦しんだ。要因としては、サロンなどのリアルの顧客接点の稼働が低下したことに加え、販売員の高齢化に伴う営業力の低下という長年の課題がここにきて表面化したことが挙げられる。現在、リアル接点は回復しつつあり、各社の業績にも明るい兆しが見えてきているが、老舗企業が抱える「販売員の高齢化」という問題に対しては、抜本的な対策を講じることが難しい状況にある。根本的な原因はどこにあるのか。
 長年にわたってダイレクトセリング業界、MLM業界のシステム支援等を手掛けてきた日本ネットワークシステムズの髙山隆憲社長は、老舗企業の問題点として、レガシーシステムから脱却ができていないことを指摘する(6月5日号2面)。コロナ禍ではリアル接点の稼働が低下した半面、デジタルツールを用いたコミュニケーションが積極的に活用され、効果を出した。コロナ禍が収束した現在、リアル接点開催が活発化しているが、ハイブリッド型のイベントも定着した。消費者の購買行動もリアル・デジタルをその時々に応じて使い分けるハイブリッド型がスタンダードになっているが、老舗企業では、そのトレンドに上手く対応できないケースも少なくない。その足かせとなっているのがレガシーシステムの存在で、ニーズに合致した新たなサービスを導入しようとしても、以前に導入したシステムがどのようになっているかを管理者が確認できなかったり、システム担当者の退職による後任者の不足で対応に追われるケースが多々あるという。髙山社長はまた、ダイレクトセリング業界に限らず、IT人材の獲得競争は激化しており、そのような視点でも、レガシーシステムの運用を続けることは、社会全体の変革を滞留させてしまいかねないと危惧している。
 現在、ダイレクトセリング絵化粧品各社の間で、サロンビジネスに続く「次の一手」を模索する動きが強まっているが、デジタルツールの活用がその核の1つとなることは間違いないだろう。例えば、最大手のポーラでは、小林琢磨社長の下でデジタル施策の積極活用が行われようとしている。同社では、EC事業の強化を狙い、新たにEC分野で実績をもつ人材を揃えるなど、体制の充実を進めている。ダイレクトセリング中心の顧客と、EC中心の顧客では属性や年齢層も異なり、それぞれに合わせたマーケティングやサービスを提供することが求められる。ポーラでは、「ポーラ プレミアム パス」によるチャネルを横断した商品・サービスの提供を戦略の軸としているが、これら一連の改革が、顧客ひいては現場で活動する委託販売員の年齢層にどう影響してくるか。その成否は、今後の市場の趨勢にも変化をもたらしそうだ。
(2025年6月12日号)