社説 現場意識との乖離を埋めよ

 本紙が2025年7月に実施した「第78回ダイレクトセリング実施企業売上高ランキング調査」では、前期と比較可能な119社の売上高総額は1兆3396億4400万円で、前期比1・3%増となり、前回調査(=2024年12月実施)に続いてプラスとなった。その一方で、回復幅は縮小しており、昨今の物価高騰や物流コストの増大、販売員の高齢化など、さまざまな要因によって引き続き厳しい環境であることには変わりがない。1面で報じている通り、ダイレクトセリング業界でも、化粧品分野では回復に遅れがみられ、老舗・大手を中心に業態改革が難航していることがうかがえる。
 化粧品分野では、コロナ禍を経てオンライン・オフライン両軸のビジネスモデルを構築する動きが強まり、定着する流れとなっている。現在では実店舗や商業施設・各種イベントなどといったリアル施策も活発な取り組みがみられる。特徴的な動きとしては、これまで原則的に販売組織というクローズドマーケットのみで展開してきた老舗・大手企業においても、期間限定のポップアップストア出店やSNSとの連動など、新しい試みが散見されるようになってきたことだ。さらに、OEM・ODMの展開など、主力の販売組織以外の事業で市場を開拓するケースも増えてきている。
 これらの施策の背景には、やはり販売組織の高齢化や、既存のビジネスモデルではニーズをとらえづらくなってきたという危機感がある。前述したように、本業の改革は、オンライン・オフラインを両軸とした新たなダイレクトセリングの構築にあるが、その動きが最も活発なポーラにおいても、業態改革がスムーズに行われているとは言えない状況にある。このビジネスでは、長らく団塊世代の女性販売員が販売の主力を担ってきたが、その世代も後期高齢者と言える年齢に入ったことで、第一線から退く人が増えている。無論、中には何歳になっても販売活動を続けている人もいるが、現時点ではそのような例は稀有だ。同社では、オンライン・オフラインを統合したビジネスモデルによって、ブランドへの入り口を揃えた上で最終的にサロンへ誘導するフォーマットを構築していくことが、販売組織の衰退の打開策と位置づけているが、「人と人のつながり」を強みとしてきたダイレクトセリングは属人的要素も大きく、青写真どおりには改革が進んでいないのが実情のようだ。
 他の老舗企業においても、差異はあっても事情は似ている。中には円滑な世代交代によって組織を維持している企業もあるが、多くの企業で今後数年のうちに主力の団塊世代の引退が加速するとみられる。ITの活用は、次世代ビジネスモデル構築の核となることは間違いないが、改革を急ぎたい企業側と販売現場の意識の乖離をいかに埋めていくかが成否を分けそうだ。

(2025年8月14日号)