社説 押し寄せる多様化の波

 1面で報じている通り、ダイレクトセリング化粧品市場では、「メーンブランドの高機能・高付加価値化」のトレンドが続いている。その一方で、コスパ・タイパ重視という昨今の消費者マインドに対応したラインナップを展開する動きもみられる。さらに、ジェンダーレスやメンズコスメなど、新たなニーズが期待できる市場開拓へ参入するなど、各社の商品政策は多様化の様相を呈している。
 最大手のポーラは、9月1日に最高峰ブランド「B.A」を刷新し、国内外での需要拡大の足がかりと位置付けている。ブランド強化と両輪にビジネスモデルの刷新も進めており、販売チャネルを横断してIDを統一・管理する「ポーラプレミアムパス」(PPP)を導入したことで、チャネルごとのサービス体験の格差を解消するとともに、多様な接点でポーラに関心を示した顧客を多方向からフォローする取り組みを進めている。委託販売チャネルが主力の販売チャネルであることには現在も変わりないが、販売員の高齢化などを背景に営業体制の縮小が続いており、コロナ禍前のピーク時の体制まで回復させるのは至難の業。PPPは、委託販売チャネルをはじめ、百貨店、ECなど多様な販売チャネルを入口にサービスや商品を提供することで、これまで販売員が担ってきた愛用者とのつながりをシステムとして補完し、ロイヤルユーザーの獲得・育成につなげていくことが目的だ。最終的には、「ポーラ ザ ビューティー」などリアル接点へ誘導し、販売員とユーザーの強固な関係性を築き上げる狙いだが、そのために必要なのが、「B.A」などの看板ブランドの強化というわけだ。クローズドマーケットをメーンに展開してきたダイレクトセリング化粧品は、もともとローヤリティの高いユーザーが多いが、その輪をPPPを起点にデジタル上のつながりにまで拡大させることができるのかが注目される。
 他の老舗企業における最高級ブランドや看板ブランドの刷新・強化も、基本的にはポーラと同じ戦略にもとづくものだ。競争が激しい化粧品市場にあって、クチコミベースで展開してきたダイレクトセリング化粧品が今後も存続していくためには、入口はどうあれ、最終的にリアル接点での対面カウンセリング、商品販売につなげる導線の確保がキーとなる。コロナ禍前まではサロンがその役割の多くを担っていたが、社会情勢の変化とともに、位置づけも変わりつつある。リアル店舗の在り方も、高級化路線がみられる一方で、より手軽に来店できるスタイルや、美容だけでなく健康も視野に入れた店舗など、サロンビジネスにも多様化の波が押し寄せているようだ。
 ライフスタイルや価値観の変化によって、事業者側には顧客1人1人に寄り添った対応が求められる今の時代、戦略にも柔軟性が求められる。

(2025年9月11日号)