社説 二の足を踏む事業者

 ダイレクトセリング業界といえば、かつては”新製品のテストマーケティング市場”という側面も大きい業界だった。さまざまなサプリメントや健康・美容機器など、今では一般市場でも認知されている製品も、ダイレクトセリング業界では先駆けとしていち早く投入され、認知を得てきた。翻って現在、そのような傾向はみられない。ECやクラウドファンディングなど、テストマーケティングの選択肢が増えたという理由もあるだろう。一方で、ある訪販事業者からは、「コンプライアンスが求められる現在、リスクのある製品を扱うことには躊躇してしまう」という声も聞かれる。
 本紙でも取り上げたが、先日、サントリーホールディングスの会長人事が大きく取り沙汰された。トリガーとなったのは、元会長が海外から個人的に輸入したCBD(カンナビジオール)サプリメントの中に、基準を超えた「THC」が含まれていた可能性があり、サントリーホールディングスが「ガバナンス上極めて深刻な事案であるという認識」にもとづき、会長辞任という決定を行った。
 CBD関連については、厳しい基準ではあるものの、それまでほぼ野放しだった市場に一定のルールが形成された。事業者はそれに則った製品の製造を行い、ECを中心に今後の拡大が期待される。一方、ダイレクトセリング業界でCBD関連商材を取り扱う企業は少ない。以前はラインナップしていたが、手続きの煩雑さや既存アイテムとの競合などを理由に販売休止したケースもある。加えて、CBDの大麻由来成分という特性について、会員が「好ましく思っていない」(同)という事情もあるようだ。サントリーHDの会長辞任問題では、個人輸入のCBD製品が大きく取りざたされたが、適法に販売している国内製品のイメージが大きくダウンしたことは否めない。
 前出の事業者はまた、「CBDだけでなく、大麻を取り巻く国内情勢が大きく変わらなければ、あえて火中の栗を拾うようなことは、今の訪販業者にはできないのではないか」と分析する。新規顧客の獲得が難しい時代において、重要なのは既存顧客の育成だ。ロイヤルカスタマーの確保はすなわち収益基盤の安定化につながる。「新規事業をやろうにも、屋台骨の修繕が先決事項。昔のように、将来性が不透明な商材に飛びつくチャレンジはできない」(同)。  コロナ禍後、ダイレクトセリング業界ではビジネスモデルの変革が急務となっている。現代ニーズに合致した顧客接点の創出がその目的だが、商品政策においてもその視点が必要ではないだろうか。今の時代、コンプライアンスの遵守は大前提だが、このビジネスの強みを活かせるような商材の開発も、市場活性化には不可欠だ。

(2025年9月25日号)