社説 「マルチ」苦情、激減の背景は

 「マルチ取引」の苦情件数が減少を続けている。国民生活センターの「PIO―NET」データを見ると、24年度は前年度比で2割減の4117件。過去20年でピークだった07年度は2万4332件だったため、激減と言っていい。苦情の5割近くを占めた20歳代の構成比は二十数%まで縮小。消費者系組織のみならず、業界も問題視してきた「モノなしマルチ」がらみの件数も影を潜めた。
 マルチ苦情の件数減少は、商品・役務の変化に理由の一端を見出すことができる。具体的には、「内職・副業その他」「ファンド型投資商品」に分類されている投資系だ。仮想通貨、アフィリエイト、海外投資、格安の海外旅行権、FX投資用ソフトなどがあげられる。
 21年度のマルチ苦情における「内職・副業その他」の件数は1425件。商品・役務でもっとも多かった。「ファンド型投資商品」は902件で、4位につけた。
 しかし、2つの件数は徐々に減少。直近の24年度は「内職・副業その他」が337件で、「ファンド型投資商品」が313件(9月17日時点)。21年度との比較は、「内職・副業その他」が約65%減、「ファンド型投資商品」が約76%減と大幅に減少。マルチ苦情件数全体が減少する大きな要因となった。
 これら2つの投資系商材を販売するマルチは「モノなしマルチ」と呼ばれ、連鎖販売取引規制の強化の必要性が主張される際、必ずと言っていいほど取り上げられてきた。20年版の「消費者白書」では「モノなしマルチ」に焦点があてられ、相談者の多くを社会経験が未熟な若者世代が占めることと合わせ、社会問題化しているとの見方が盛り込まれた。
 しかしその後、投資系商材のマルチ苦情は大きく減少。ターゲットにされてきた若者層が苦情に占める割合も縮小した。業界の主力である健康食品、化粧品も件数の減少が続いている。ある意味、マルチ苦情がクローズアップされる理由は小さくなったと言える。
 一方、投資系商材をエサにした悪質商法が消えさった訳ではない。販売購入形態を見ると、マルチから通信販売に「移動」しただけ――という見方ができるためだ。
 「ファンド型投資商品」を例に取ると、通販の苦情における件数は21年度の1538件に対して、24年度は2403件に増加した。「内職・副業その他」は4%減の6298件だったが、マルチでの減少に比べれば高止まりしている。
 ここでいう通販はSNS広告で興味を引き、SNSやWEB会議で勧誘する手法が多いため、通常の通販とは異なるものの、引き続きトラブルを引き起こしている実情に変わりはないと言える。

(2025年10月2日号)