社説 書面の電子化 検討着手も前途遼遠

 特定商取引法の「書面電子化」制度の利用状況等について、消費者庁が検討に着手した(9月18日号1面参照)。検討対象の有力候補の一つが、制度を利用する事業者が皆無に等しいこと。最大の理由は、非常に煩雑な手続きが要件化されたことにある。一方、同庁が自ら行った実態調査の報告書は、事業者と消費者の双方の視点から制度が抱える課題をまとめただけでなく、消費者保護を確保した上で制度を利用しやすくなるアイデアを示した。検討のためのデータと論点はすでに揃っている。
 21年に公布された改正特商法では、書面電子化制度に関わる規定が23年6月に施行された。改正法の附則には「施行後2年見直し」規定が盛り込まれ、25年6月に施行から2年を経過。したがって、消費者庁は施行状況等の検討を行わなければならず、検討の内容によって「必要があると認めるとき」は、「その結果に基づいて必要な措置を講ずる」こととされている。
 特商法に限らず、改正法が施行されて一定の年数を経過した段階で、施行状況に検討を加えることを定めた附則は珍しくない。13年に施行された改正消費者安全法は「5年見直し」規定に基づく検討を18年に実施。翌年、施行状況が消費者委員会に報告された。
 また、見直し規定の求める年数が経過するより前に、検討を行うことは妨げられない。訪問購入にオプトイン型の不招請勧誘規制を導入し、13年に施行された改正法は「3年見直し」規定が盛り込まれた。その2年後の15年、特商法見直しを議論した消費者委員会で、不招請勧誘規制を訪問販売等の取引類型にも広げるかどうかをめぐって大きな論争に発展した。
 17年に施行された改正特商法の「5年見直し」規定は、これに基づく検討が行われたかどうか、消費者庁と法規制強化を求める消費者系団体の間で〝見解〟が分かれているものの、少なくとも同庁は検討を行った旨を主張する。
 そして、今回の検討着手となる訳だが、その行方は前途遼遠としている。
 まず、「書面電子化」制度導入の経緯は非常に政治色が濃かった。導入は内閣府・規制改革推進会議で事実上決定。特商法の改正で前例のない大きな反発を消費者系団体や野党議員から招き、当事者であるはずのDS業界は蚊帳の外に置かれて、困惑に覆われた。
 さらに、電磁的交付の要件をまとめる有識者会議で消費者系団体側が〝巻き返し〟を図り、その要求の多くを同庁が受け入れたことから、雁字搦めのルールが設けられた。制度を使い物にならなくすることが消費者系団体側の狙いだった以上、実態調査報告書が示した制度を利用しやすくなる案も反発が予想される。

(2025年10月16日号)