１面で報じているとおり、アシュランが地域密着型の事業多角化を進めている。２０２４年３月に30周年を迎えた老舗企業であるアシュランは、「見える施策」「見せる施策」を展開してきた先駆けだ。グループのさまざまな施設を会員向けに展開してきた取組みは、近隣住民にも利用されるケースもあり、同社の戦略上、重要な役割を果たしている。
　例えば、本社のある福岡県大野城市には、広大な敷地にさまざまな施設があり、一般に公開されているものもある。敷地内には本社、配送センター、セミナー棟、バードハウス、美術館、スパハウス、ベーカリー＆カフェがあり、敷地と隣接する場所には、ハイグレードな設備とサービスが特徴の「グランドエンパイアホテル」と、会員のあらゆるニーズに応える設備が整っている。バードハウスや美術館は入場無料で、家族連れでの訪問や、学校の課外活動などにも活用されている。ＳＮＳやクチコミで好評な情報が飛び交い、利用者も増加しているという。また、佐賀県鳥栖市にある「サンセールミキ鳥栖工場」は、工場内に見学用通路を設け、設計段階から「見せる」ことをコンセプトに建設された。会員や愛用者がものづくりの現場を直に見ることができる工場は、現在では他の企業でもみられるようになってきたが、同工場はその先駆けとなった。
　アシュランの東孝昭社長の出身地である鹿児島県出水市においても、グループ企業による「見せる施策」が顕著だ。出水市では、薩摩焼酎をメインに製造・販売する「出水酒造」や、前出の「グランドエンパイアホテル」と同じくハイグレードの設備とサービスを備えた「ホテル泉國邸」、地元産の野菜や果物を栽培する「出水農産」を展開。さらに、２０２４年10月には、グァバ茶のペットボトルなどを製造・販売する「出水ヘルスウォータ」を新たに設立し、このほどグァバ茶ペットボトル「出水のグァバ茶　神秘也」の本格販売をスタートさせた。出水農産では、出水酒造で生産している焼酎、出水ヘルスウォータが手がけるグァバ茶の原材料を栽培している。また、ホテル泉國邸のレストランの食材や、地域の店舗向けの出荷も行っており、グループ内で一貫した生産管理だけでなく、地域の経済活性化・雇用創出という点でも特色のある戦略を展開している。
　ダイレクトセリング業界は、長らく会員・販売員向けのクローズドマーケットを中心に展開し、事業の核としてきた。価値観やライフスタイルが多様化している現代において、ブランドに高い信頼性をもつロイヤルユーザーを獲得することは重要性を増しているが、会員・販売員によるクチコミだけでなく、主宰企業が率先して事業展開を「見せる」ことが、フィールドの活動をより強固なものにしていくと言える。