概要書面、郵送交付のポイントは?コロナ下の「リモート型勧誘」事情

会社など「第三者」による「郵送」もOK取引対策課「説明時に届いてるほうが理想」
 新型コロナウイルスの問題を受けて、MLM(連鎖販売取引)業界で、ZOOM等のオンライン会議ツールを利用した「リモート型勧誘」が増えている。政府の緊急事態宣言は 全面解除されたものの、今後も対面のアプローチは敬遠されておかしくない。そして、オンラインのスポンサリング活動が定着していった際、 課題の一つに浮上するのが、特定商取引法が求める概要書面の交付義務だ。対面の受け渡しが難しい場合、これに代わる手段でクリアする必要がある。 連鎖販売を中心に業界の課題を分析するネットワークマーケティング研究所(NMI、横浜市)の宮澤政夫代表の知見も参考に、「リモート型勧誘」に おける概要書面交付のあり方を探った。

PDFのダウンロードは不交付
 オンライン上で行われる「リモート型勧誘」では、ビジネスの説明に要する資料をデータでやり取りする場面が飛躍的に増える。 製品カタログや報酬プログラムの早見表、会員規約等のマニュアルなど、PDFや画像の形でメールに添付したり、 主宰企業のWEBサイトからダウンロードしてもらうことが想定される。
 が、概要書面の交付に関しては、メール添付やダウンロードといった手法を取ることが認められていない。特商法の逐条解説(表参照)は 「書面と電磁的記録を別個のものとして書き分けているため、電磁的記録は書面に含まれない」としているためだ。例えば、概要書面を熟読する といった同意欄をチェックしないとダウンロード出来ないようにしていてもNGとなる。
 この現物書面主義≠ニでも呼ぶべき考え方には、昔から業界の根強い反発がある。コロナ問題をきっかけに「消費者の同意があれば、 デジタルの書面でもOKにしてほしい」(MLM企業の法務スタッフ)という声がひと際高まっているものの、不意打ち性や情報・経験の格差などを 理由として規制緩和の兆しは窺えない。現状では、紙の書面を被勧誘者に受け取ってもらう必要がある。
郵送交付は事前の取り決め、同意推奨
 一方、紙の形であれば、交付の方法にはある程度の自由が存在する。
 逐条解説は「契約の締結以前に相手方に到達するならば自ら交付しても、第三者をして交付せしめてもよく、また、郵送でもかまわない」と説明。 勧誘者から被勧誘者へ対面で手渡しするだけでなく、勧誘者以外の「第三者」から交付したり、手渡しでなく「郵送」で交付することも可能となっている。 例えば、勧誘者の手間を軽減するため、主宰会社から被勧誘者に郵送するケースなどが考えられそうだ。
 特商法を所管する消費者庁取引対策課は「(交付の)依頼を受けた誰かが郵送しても別に構わない」「自ら郵送しても、 第三者を介した上でその第三者が郵送で送っても、その他の法律の要件を満たす限り、違法となるものではない」とコメント。 「第三者」の詳細な定義は逐条解説で触れられていないが、主宰企業が会員に代わって郵送することも特商法に反しない旨を述べる。
 ただし注意点も。「仮に、本部(=主宰企業)から(概要書面を)交付するという約束が何もなされていない場合は、 果たして『連鎖販売業を行う者』が交付したと言えるのかは疑義もある」(取引対策課)として、主宰会社から郵送する手続きに関して事前に 組織内で取り決めておくことや、会社からの郵送について被勧誘者の同意を得ておくことを推奨する。
契約締結ギリギリの郵送「注意を」
 郵送で注意すべきもう一つのポイントが、被勧誘者が概要書面を受け取るタイミングだ。
 逐条解説は「書面の交付は、特定負担についての契約の相手方が特定して交渉に入ってから契約を締結するまでの間に行わなければならない」と説明。 条文本体でも「その契約を締結するまでに(中略)概要について記載した書面をその者に交付しなければならない」と定める。 業界関係者には釈迦に説法だが、契約締結前の交付が不可欠となる。
 対面勧誘なら、これから製品やビジネスの説明に入るというタイミングで、その場で手渡しされることが普通。が、「リモート型勧誘」の場合は、 一通りの説明が終わって被勧誘者が製品購入や会員登録の意思を示した後、勧誘者等から概要書面を郵送するケースなどが想定される。 この郵送と被勧誘者による書面の受領タイミングが、登録受付完了等の後にずれ込んだりした場合、交付義務違反となるおそれが心配される。
 このようなリスクに、取引対策課は「説明するよりも後、契約締結ギリギリになって(概要書面が)送られてきてしまうようなことは、 注意いただいたほうがよい」「契約締結のタイミングで受け取るようなことがあると、きちんと内容を理解した上で契約を結ぶという(特商法の) 趣旨が損なわれかねない」と指摘。具体的な対処として「説明をする時点で(概要書面が被勧誘者に)届いているほうが、基本的には理想的」 (取引対策課)と続ける。
 製品やビジネスに十分な理解を得る手順や手間は、概要書面が紙でもデジタルでも大きな違いはないと考えられる一方、 特商法が求める交付義務をクリアするという観点からは、紙の書面の交付方法、タイミングにはこれらの留意が必要だ。