書面交付の電子化 DS業界の「賛否」「対応」は?

反対意見は寄せられず、「デジタル社会に適合」電磁的交付の実施、半数は「検討中」「要件次第」


 3月5日、法定書面の電磁的交付を可能とする特定商取引法改正案が国会に提出された。成立した場合、訪問販売や連鎖販売取引の事業者は、消費者の承諾を前提として、 紙の代わりにPDF等の電子データの形で契約書面や概要書面を交付できるようになり、勧誘・契約プロセスに大きな変化をもたらす可能性がある。このため本紙は、 「書面交付電子化」に対する業界各社の見解を調査。賛否や対応方針をまとめた。
交付コストを削減
 まず、法定書面の電磁的交付を可能とする法改正への各社の見解を調査。回答を得た16社(表参照、一部企業は社名非公表)のうち、10社が賛同する考え方を示し、 残り6社は明確な賛否を保留。電磁的交付へ明確に反対する意見は寄せられなかった。
 賛同企業に見られた主な理由は、コロナ禍を背景としたデジタル化社会の加速や、紙による交付にともなうコストの削減など。「会う機会が少なりつつある現在の社会において、 効率的・確実性・時間短縮にする上で必然的」(ゲオール化学)、「遠隔地間の訪問販売(ネットワークビジネス)が現実として増加している以上、その流れにマッチした書面交付の電子化は、規制緩和とし てまずは歓迎」(シナジーワールドワイド・ジャパン)、「デジタル化という社会的趨勢に適合する」「紙面印刷や郵送には相当な時間と費用がかかるので経営のコストダウンにも資する」 (モデーアジャパン)といった意見が寄せられた。ナチュラリープラスは、交付プロセスの効率化に加え「書面不交付の防止」にも貢献するとの見方を寄せた。
トラブル懸念、様子見も
 ただし、賛同を示した企業において、「消費者トラブルに結びつく可能性や悪質事業者の悪用等によるトラブルが高まる可能性があり、その点は懸念」(国内資本・中堅連鎖販売C社)として、 電子化にともなうトラブルを心配する声も。電子化のアイデアが昨年?月の規制改革推進会議で唐突に浮上し、政府のトップダウンと言える形で法案に急遽盛り込まれた経緯から、 「十分な補完措置の検討もないまま反対意見も多く拙速のように思う」(M3)とする意見も寄せられた。
 一方、賛否を保留した企業からは、「電子化による利点や懸念点を慎重に検討し、業界の健全な発展につながる策を講じたい」(ニュースキンジャパン)、「今後の対応を慎重に検討中。 現時点の見解は控えたい」(外資・大手連鎖販売D社)、「デメリットやリスクがまだすべて想定しきれていない」(外資・中堅連鎖販売E社)などの意見が寄せられ、 法案の行方を注視している様子が窺えた。
 このほか、「どちらでもよい。可能となっても紙による交付を顧客から求められそう。当社の場合、電磁的な扱いを不得意とする方が多い」(日健総本社)、 「『消費者保護』『事業会社の自主防衛』『業界のレピュテーション向上』などすべての視点から紙による交付を義務付けるべき」(日本シャクリー)との意見が寄せられた。
法定要件で最終判断
 法案の成立によって電磁的交付が可能となった場合、実際に電磁的交付を行うかどうかについては(グラフ参照、施行は公布から1年以内)、各社の回答内容を本紙がカテゴリー分けした結果、 検討中あるいは未定などとする方針がもっとも多く、回答社の半分にあたる8社が該当した。
 寄せられた主な方針・見解は、「現時点では何とも言えない」(M3)、「社内の運用、ビジネス現場でのリスクなど、諸々の懸念が解消できるか否かという観点から検討中」(シナジー)、 「なんとも言えないが、明確な実施条件と社内体制などが見合えば検討の余地はあると思う」(E社)、「法定要件の中身によって最終判断する」(外資・中堅連鎖販売F社)、 「他社状況を見ながら進めていく」(C社)など。
 デジタルに不慣れな顧客が少なくないとして、「電磁的交付を実施しても進まない」(日健総本社)との見方も寄せられた。またC社は、電磁的交付を決めた場合、 愛用会員からビジネス会員への資格変更プロセスに限定して運用する考えを示した。
(続きは2021年3月25日号参照)