社説 徳島オフィスの設置の是非こそ検証を

消費者委員会は本紙既報(6月13日号)のように、下部組織の「消費者行政新未来創造プロジェクト検証専門調査会」が 取りまとめた報告書に基づいて、消費者庁が同庁及び国民生活センターの徳島県での取組の検証・見直しを行う際には、 同報告内容を踏まえることを求める旨の提言を消費者庁等に発出した。
しかし、同専門調査会の検証対象は、消費者庁の徳島オフィスが取組んだ14のプロジェクト及び国民生活センターが同県内で実施した 研修事業と商品テストの成果が中心であり、徳島オフィスの設置それ自体、及び国センの2つの事業を同県内で行うことそれ自体の是非については 検証の対象にしていない。このことは、消費者委が消費者行政全般の監視機能を有するとする視点から見れば、本命を外した瑕疵ある検証と 言わざるを得まい。
同報告書では消費者庁の14のプロジェクトについて、一部未完成のものはあるものの、大方は「国及び全国の地方公共団体の消費者行政の 進化に寄与する」とする一方、国民生活センターの取組は、研修事業は受講者数との関係では成果が不十分であり、商品テストについても 実証フィールドの活用が限定的であり、且つ、調査結果の地域的特性の影響の補正が必要になるなどとして、見直しが必要であるとしている。
国センの2つ事業の徳島県内での展開には、それら事業の特質と徳島県という地理的環境に照らせば、 既存の状況で遂行する以上の実績を得ることが困難であり、むしろ色々な支障が生ずることは事前に十分予見できたはずだ。 実施を踏まえてまで事後的に検証する必要はなかったものと言える。消費者庁が取組んだ14プロジェクトはどうか。 これらプロジェクトの中で、東京オフィスでの取組みが不可能なものがあったとは考えられない。 むしろ東京で行った方が専門家の知見を含む情報収集等が容易であるなど、プロジェクトに取組むに当たっての環境はより優位にあったと考えられる。
同報告書では、徳島で行われたことの意義として、徳島県庁の各部局を始め、教育機関、事業者・同団体、 消費者団体等いわばオール徳島県から様々な支援・協力が得られたことをあげている。更に、プロジェクトに取組むに当たっては、 「広範かつ他律的な業務に日々追われることが多い東京オフィスを離れたことで、集中的に調査・研究を実施できる環境が整えられている」ことを 指摘している。しかし、これらの指摘は各プロジェクトが円滑に進められたことの背景についての検証であって、 消費者庁の機能を地方に分割移設することが、消費者行政全体の進化に寄与するか否かの検証ではない。
同報告書では徳島で行う上での課題として、交通の便が悪く、県外出張の際の移動に伴う身体的負担が大きい、 強風等で本州とのアクセスが断たれることがある、東京の様子や状況が分かり難いことをあげている。 これら以外にも組織の分断による業務遂行上の効率低下は大きく、財務面でのコスト増も大きな課題と考えられる。 東京の地理上の優位性を考量しつつ、これら課題についての検証こそが重要になる筈だ。