多様化時代のブランド戦略

化粧品企業にとって、主力ブランドのリニューアルは大きな出来事だ。それが、既存のイメージとあまりにも乖離していたとすれば、これまでの愛用者が離れていくのではないかという懸念が生じる。 かといって、従来と変わらぬ印象では刷新する意味合いが小さくなってしまう。この辺りのバランスが難しいが、ナリス化粧品が先ごろ発表した主力スキンケアシリーズ「ルクエ」の大幅刷新は、 挑戦的な内容を多く含んでいると言える。
 「ルクエ」は、最高級ラインの「セルグレース」、基幹ラインの「マジェスタ」などと並び、ナリスブランドを象徴する主力スキンケアライン。誕生から10年が経過し、 900万個を販売した実績をもつ。2016年の1度目のリニューアルに続いて、2度目の刷新となる今回は、機能性や使い心地を高めたほか、 女性のライフスタイルが多様化している社会情勢を受けて、より多くの女性が使いやすいラインナップを揃えた。〝ナリスブランドへの入り口〟についても、新しいアプローチで訴求している。
 「ルクエ」は、リニューアルの度にそのイメージをガラリと変えてきた。分かりやすいのはボトルデザインで、初代はブラウンを基調としたシックなイメージ。 現行の2代目は、オレンジベースの明るい印象を与えてきた。3代目となる新「ルクエ」は、〝透明感〟をイメージさせる容器を採用した。これは、誰でも手に取りやすく、 使いやすいスキンケアシリーズという特色を、さらに強めることになった。前述したように「ルクエ」は、〝ナリスブランドへの入り口〟という役割を担ってきた。 それは、セルフエステサロン「デ・アイム」の手軽さと相まって、新規会員獲得の大きな原動力となってきた。イメージキャラクターに女優の趣里さんを起用したのも、多 様なライフスタイルの中で芯の強さをもつ女性をメーンターゲットとしていることが窺える。ちなみに、キャッチコピーの「スキンケアを、疑え。」はマーケティング的な意味合いが強いそうだが、 化粧品企業自らが打ち出すコピーとしてはかなり挑戦的な印象を受ける。
 販売戦略面でも、新「ルクエ」は新しい手法を用いている。具体的には、これまで理論的に説明しがちだった商品説明を、オノマトペを前面に出して感性に訴えるアプローチに変更した。 化粧品の高付加価値・高機能化路線はここ数年のトレンドだが、専門的な知識を持たない一般消費者にとっては、どの程度機能が進化したのか分かりづらい面があることも確かだ。 そこで視点を変えて、叙情的なアプローチにすることで、より〝実感ポイント〟が分かりやすい説明を行い、女性の共感力に訴えるというわけだ。
 ナリス化粧品はサロン戦略において、来店しやすさ、継続しやすさといった「手軽さ」によって幅広い層から支持を集めてきた。新「ルクエ」は、高付加価値・高機能化を進めながらも、 「分かりやすさ」に主眼を置いているのが特徴だ。スキンケアとしてのシンプルさを追求した同ブランドがどう受け入れられるのか、注目される。