連鎖販売 勧誘は事実に基づき丁寧に

  消費者契約において、消費者の脆 弱性につけ込んで勧誘する「いわゆ る『つけ込み型』勧誘」に、 「浅慮」 と「幻惑」という消費者の心理状態 に着目した規律を新たに設けること が、消費者庁の「消費者契約検討会」 で議論されている。それぞれの要件 として次のようなことが検討されて いる。「浅慮」は「消費者が不安を 抱いていることなどを知りながら、 消費者の検討時間を 不当に制限する 行為」とし、規定に当たっては、事 前に告げることなく直ちに契約を締 結するよう迫る、理由なく時間の制 限を行う等の事業者の行為態様の不 当性を厳格・明確に規定した上で、 取消しを認めるというものだ。「幻 惑」は「期待をあおる行為」とし、 消費者が「願望の実現に期待を抱い ている」ことを知りながら、「期待 をあおり、正当な理由がないのに、 契約をすれば願望が実現する」旨を 告げる行為を対象とする。事業者の 行 為態様の不当性については要件を 厳格・明瞭に設定し、通常のセール ストーク等と明確に区別する。
 同検討会では、「浅慮や幻惑の概 念の整理が不十分である」等の指摘 があり、これらの規律が設けられる か否かは、なお予断が許さないとこ ろがある。とはいえ、消費者契約法 はあらゆる消費者取引を対象にして おり、ダイレクトセリング(訪販と 連鎖販売取引)も対象になる。
 特に連鎖販売取引については、特 商法が統括者、勧誘者、一般連鎖販 売業者に 禁止規定を設けているほ か、「相手方の利益を害する恐れの あるもの」として、「未成年者その 他の者の判断力の不足に乗じ契約を 締結させる」、「相手方の知識経験 及び財産の状況に照らして不適当と 認められる勧誘を行う」ことを是正 指示の対象にしている。是正指示違 反には刑事罰がついている。
 このような現状に照らして浅慮・ 幻惑による勧誘が消費者契約の取消 対象となり、さらにその考え方が特 商法に反映され、禁止行為や是正指 示の対象になれば、その影響は決し て小さいものではない。
 例えば、連鎖販売取引の勧誘の現 場では、 「君ならき っとできる、一緒 にやろう」 「このグループの皆が応援 するから成功する」 「今、契約しない とチャンスを失う」 「当該商品は店頭 や通販では入手できないユニークな ものだからニーズが高い」などのト ークはよく用いられること。これら の勧誘トークが直ちに浅慮・幻惑類 型とみなされることはないとして も、勧誘の場の雰囲気や消費者の事 情によっては、消費者被害として表 面化することがある。そのことが連 鎖販売取引の社会的評価に繋がる。
 こ れらの事実を踏まえ、又、浅慮 ・幻惑類型が取消の対象になり得る ことを視野に入れれば、連鎖販売取 引を展開する各社は、フィールドに おける勧誘トークの全面的な見直し の時期に直面しているといえる。見 直しに当たっては、「事実に基づく 丁寧な説明」がポイントになると考 えられる。年次毎のビジネス会員の 数や継続年数、ランクごとの平均報 酬額などは、当該組織に加盟しよう としている人にとってその可否を判 断する基本的な情報だ。これら情報 と熟慮の機会を提供することを勧誘 の基本にすべき時期を迎えている。