立証責任の転換、慎重な議論を

 16年改正から4年を経過した 特定商取引法に再び、行政が手 を付けようとしている。消費者 庁の「特定商取引法及び預託法 の制度の在り方に関する検討委 員会」において、高齢者等の 〝脆弱な消費者〟を悪質業者か ら守るためとして、「合理的根 拠要請権」の行使範囲を拡張す るアイデアが浮上している件だ (4面記事参照)。「販売預託 商法」規制で早急な対策が求め られていることは論を待たない 一方、拡張案に同様の緊急性・ 必要性があるのか。
 現行の特商法は要請権を行使 できる対象を、効能や販売・必 要数量などに不実告知の疑いが ある場合と定めている。取引対 策課はこれを拡張し、過量販売 や適合性原則違反の疑いがある ケースについても合理的根拠を 求められるようにしたい考え。 これら2つの違反に「専門的又 は複雑な事項も多く、立証に時 間を要する」(検討委員会資料 より)ためという。
 ただ、このアイデアが成立し た場合、事業者の負担は大きく 増す。行政が負ってきた立証責 任が事業者のほうに転換される 形となるからだ。
 特に過量販売は、運用開始か ら10年を経過した今も、「通常 必要とされる分量を著しく超え る」という基準の詳細が明瞭で はなく、合理的根拠を求められ ても、事業者側の考える安全ラ インと行政の想定するそれが食 い違ってくる可能性が否定でき ない。日本訪問販売協会が設け た「通常、過量には当たらない と考えられる分量の目安」はあ るものの、ボーダーラインを示 したものではなく、あくまで自 主基準にすぎない。
 ダイレクトセリング業界の一 部は、購入する分量について顧 客から事前に同意書を取得した り、「正当な理由」をもつ契約 であ ることを担保する手続きを 踏んできてはいるが、負担が増 すことには変わりない。顧客の 知識・経験・財産の状況に応じ て判断する適合性原則違反も、 類似のあいまいさを抱える。
 この点を見越し、2回目の検 討委員会では、訪販協理事でも ある高芝利仁委員が、過量の 「著しく超える」ケースの条件 を前もって整理した上で拡張案 を検討すべきと、行政サイドを 牽制。訪販協専務理事の大森俊 一委員、日本商工会議所理事の 荒井恒一委員も慎重な議論を求 める意見を提出した。
 また、拡張案が採用されれば、 過量販売や適合性原則違反を適 用した行政処分も増加すること が確実。同様の合理的根拠要請 権をもつ景品表示法は、措置命 令のほとんどで要請権を行使し ており、〝みなし規定〟として の使い勝手が実証されている。
 考えられる影響の大きさに対 して、議論に割くための時間は 短い。優先すべきテーマがはっ きりしている中で、合理的根拠 要請権の拡張を急ぐことには慎 重であるべきだ。