書面交付の電子化 業界で交錯する「歓迎」と「困惑」

  昨年11月に内閣府の規制改革 推進会議で突如浮上した後、わ ずか2カ月で消費者庁から解禁 方針が明言された、特定商取引 法の法定書面の電磁的交付。紙 の書面を手渡し、郵送している 現状の手間が、デジタル送信で 置き換えられるようなら、様々 なメリットが想定される。ダイ レクトセリング業界にとっては 願ってもない話と言える。が、 あまりに急激なスピードで事態 が進んでいることから、不安や 戸惑いを口にする業界関係者 も。規制緩和には業界の働きか けがつきものだが、今のところ そのような動きも窺えない。
 「(現行の特商法では法定書 面の)電子交付をできない現実 がある。将来的にそういう規制 (の緩和)はないだろうと考え ていたので、(電磁的交付は) ある意味、青天の霹靂みたいな ものがある」。
 書面交付電子化をめぐるヒア リングのため、1月20日の消費 者委員会に出席した日本訪問販 売協会の専務理事は、電子化へ の所感をこのように評した。業 界関係者の多くの気持ちを端的 に代弁したと言えるのではない か。
 協会の中で電磁的交付の課題 等を検討してきた経緯はないこ とにも触れた。実際、各種委員会 や特別に立ち上げた研究会など で電子化の件をテーマに議論し た形跡はない。したがって、訪販 協が団体として電磁的交付を可 能とするように行政へ働きかけ てきたこともないことになる。
 一方、ヒアリングでは、「ず いぶん以前から『契約書面等を FAXやメールで送れないの か』という問い合わせを結構受 けてきた」とも述べられた。オ ン ライン上だけの申し込み、契 約完了が日常となっている通信 販売に対して、紙の書面の交付 義務を課されてきた特商法6類 型は、相対的な不利を強制され てきた。マーケットの趨勢に後 れを取っている現状に対して、 コロナ禍でさらに不満が高まっ ていることも事実だ。業界で電 子化解禁の動きは歓迎されてい る。
 しかし、歓迎姿勢の内実には 温度差も垣間見える。デジタル に不慣れな高齢層が顧客に多い 場合は恩恵を受けにくい。消費 者からの事前承諾の取り方な ど、細かいルールが政省令へと 後回しにされるため、どこまで 使える電子化となるのか懐疑的 な見方もある。アウトサイダー 的事業者によって悪用され、業 界認知へダメージを与える可能 性を懸念する声も聞く。
 6類型の電子化が、DS業界 のロビー活動の成果というわけ ではないという点も、温度差の 背景には指摘できる。このため、 反対ではないし歓迎もするが、 賛意を積極的にアピールするま ではしないという、ある意味デ リケートな様相を呈している。 解禁を望むなら、業界としても う一歩踏み込んだ取り組みが必 要だろう。