根拠要請権の拡大、自縄自縛で見送り

  3月5日に国会へ提出された 特定商取引法改正案。注目の 「書面交付電子化」が盛り込ま れた一方、合理的根拠要請権を 過量販売でも行使可能とする改 正や罰則引き上げ、違法収益没 収の導入は見送られた。特に、 根拠要請権の拡大案に関して は、要請権を適用した行政処分 は処分までの期間が大幅に短縮 されたと消費者庁は説明してい たが、その具体的根拠を明らか にしていなかった。見送りは当 然であり、同庁の身から出た錆 が招いた結果と言える。
 合理的根拠要請権の行使対象 を過量販売に広げる改正は、 「特定商取引法及び預託法の制 度の在り方に関する検討委員 会」が昨年8月にまとめた報告 書で、「違反行為の立証に時間 を要する過量販売等を対象に追 加する必要がある」と提言され ていたもの。同庁取引対策課が 委員会の初回会合に用意した、 議論のたたき台となる資料で 「法執行を強化・迅速化する」 ためには同権限の拡大が必要と 主張し、報告書にも採用された。  さらに取引対策課は、委員会 の第5回会合で、04年改正にお ける要請権の導入後は「法執行 の迅速化が可能となって」おり、 「直近数年間の行政処分を見て も、当該規定の活用により、当 該規定がなかった場合の法執行 に比べ大幅に行政処分までの期 間が短縮されている」と説明し ていた。
 しかし、この説明の根拠とな るデータの開示を本紙が求めた ところ、開示されたのは、年 度以降に国が処分した事業者数 のみ。処分した事業者のうち何 社に合理的根拠を求めたかをは じめ、処分までの期間を知る手 掛かりとなる「着手日」「合理 的根拠請求日」「処分日」の具 体的 な日付は「黒塗り」された (20年10月15日号1面参照)。  実際に、処分までの期間をど れだけ短縮できたか分からなけ れば、合理的根拠要請権の行使 対象を拡大する法改正の根拠は 崩れる。消費者庁がほとんど 「黒塗り」のデータしか開示で きず、自らの主張を裏付けられ なかった以上、法案における見 送りはある意味、想定された事 態だったとも言える。
 またそもそも、委員会におけ る議論は、メインテーマであっ た販売預託商法と詐欺的な定期 購入商法の規制に集中し、要請 権の行使対象を拡大する案につ いては、まとまった意見交換は 行われなかった。拡大対象の候 補となった過量販売をめぐり、 合理的根拠の考え方の要件を示 すように求める意見が業界団体 サイドの委員から出る場面はあ ったが、行使対象を拡大するこ との是非とは別の話だ。
 したがって、コロナ禍でオン ライン会合が続いた事情もある とはいえ、処分の迅速化に役立 つという取引対策課の主張を鵜 呑みにして、報告書に提言を盛 り込んだ検討委員会としての責 も問われるのではないか。