「禁止命令」強化、悪質業者の脅威に

  3月5日に上程された特定商 取引法改正案。書面交付電子化 の件を除く改正事項は、今国会 で成立する可能性が高い。中で も業務禁止命令の見直しは、行 政処分の抜け穴をふさぐことに つながり、悪質事業者には脅威 となりそうだ。
 業務禁止命令は16年改正で新 設。業務・取引等の停止命令を 受けた会社の「役員」等に対し、 停止命令を受けた業務・取引等 を新たに始めたり、他の会社の 当該業務・取引等を担当する役 員になることを禁じる。
 近年は停止命令とセットで禁 止命令が出ることが常態化。業 務・取引等を遂行する上で“主 導的な役割を果たしている”人 物が対象のため、代表取締役と いった分かりやすいケースだけ でなく、会長や営業部長、影の オーナー的存在も処分されてき た。19年度は延べ66件の禁止命 令が出され、停止命令の延べ53 件を上回った。
 改正法案は、この禁止命令の 運用範囲を拡大。禁止命令の対 象となる「役員」等が、グルー プ会社等の「特定関係法人」で 同じ業務を行っている場合、こ の「特定関係法人」における同 業務に携わることも禁じられる ようにする。現行法は、新たに 同業の会社を設立したり、他社 で同業務に新たに携わることを 対象としている一方、既存の別 会社で同業務に携わりつづける ことは禁じていないことから、 抜け穴を防ぐ。
 抜け穴をうまく利用したと言 える直近の事例には、昨年月 の連鎖販売取引事業者「アイエ ムエスジャパン」の処分などが ある。禁止命令を出された“代 理店統括代表”は、処分が出る 前の昨年1月頃から、「株式会 社R S」という同業の別会社で 同様の違法行為を繰り広げるよ うになっていた。
 しかし、現行法では、“代理 店統括代表”が「RS」で連鎖 販売を続けることを禁じること はできない。このため、消費者 安全法に基づく注意喚起の形で 「RS」を社名公表するという 合わせ技を駆使。ただ、あくま で注意喚起に過ぎず、営業を差 し止める強制力はなかった。
 さらに、法案では業務禁止を 命じられる対象も拡大。現行法 は、処分日から遡って日以内 に「役員」等だった人物が対象 だが、これを1年以内に伸ばす。 ほとんどの行政処分は立入検査 から数カ月以内に行われている ため、検査後すぐに別会社を設 立したり他の会社に事業を移し たりしても、禁止命令の効果を 及ばせることができる。
 このほかにも法案は、証拠資 料が隠滅されるケースを想定し て、検査対象の事業者から業務 の委託を受けた事業者の拠点等 に立ち入って、帳簿や書類など を調べられるようにする改正も 盛り込んだ。法案の成立・施行 後は、確信犯的な悪質事業者に 対する執行が一層強化されるこ とになるとみられる。