書面交付の電子化 法案可決も、なお前途多難

  法定書面の電磁的交付を可能 とする特定商取引法改正案が5 月18日の衆院本会議で可決さ れ、参院に送られた。野党側は、 悪質事業者による悪用等への懸 念から削除を求めていたが、最 終的に施行時期の延期で決着。 付随する諸々の課題の詰めを先 送りした形といえ、衆院の審議 で消費者庁が交付要件の厳格化 を具体的に示したことを含め、 参院で可決されても先行きは厳 しいものとなりそうだ。
 施行の延期期間は1年。原案 の施行時期は公布から1年以内 だったが、2年以内に延ばす。 このため、今国会で法案が成立 した場合、電磁的交付が可能と なる時期は2023年の5~6 月頃と考えられる。電子化を待 ち望む事業者にとっては、手痛 いペンディングとなる。
 一方、衆院の審議で消費者庁 は、電磁的交付の要件を政省令 ・通達等にまとめる過程で、消 費者団体等の意見を聞いていく 旨を繰り返し述べた。その消費 者団体側は言うまでもなく、電 子化に反対。同庁は、電子化に 反対か慎重な検討を求める意見 書を送ってきた団体が、4月27 日時点で123カ所に上ると明 らかにしている。これら反対派 にとっては、要件の厳格化を図 るための時間的猶予が得られた 格好。電子化自体の撤回の働き かけも続くとみられる。
 電磁的交付の要件は、すでに 衆院の審議で消費者庁から複数 のアイデアが示されているが、 いずれも事業者にとって電磁的 交付のハードルを高める内容で ある点も見逃せない。
 一例が、電磁的交付を受ける ことに対する消費者の承諾の返 信・返答は「明示的」でなけれ ばならないとした同庁次長の答 弁。 政省令・通達等で定めると いう「明示的」の具体的な中身 が事業者にとって厳しい内容と なれば、せっかくの電子化規定 も画餅となる。
 さらに次長は、オンラインで 完結する分野以外は、電磁的交 付への承諾を当面、紙で得るよ うにさせる考えも示した。紙の 書面の交付というアナログな手 続きをデジタル化しようという 改正に、紙による同意取得を条 件に付けるという本末転倒なア イデアを述べたわけだ。
 電子化を可能とする改正が行 われたとしても、実態として利 用が難しいものとなれば、大多 数の事業者は電磁的交付を行う ことを見送り、事前承諾等の要 件など意に介さないアウトサイ ダーによる乱用を許すだけ といった事態も考えられる。
 そもそも、今回の法改正が紛 糾している理由の一つには、電 磁的交付関連の議論が公の場で 行われず、実質的に内閣府から のトップダウンで急遽、進めら れていることにある。そのよう に急ぐ一方で、原案の修正で施 行時期を先延ばしする始末。こ のしわ寄せを今後、業界が被る ことになるようなら全く納得で きるものではない。