「狭き門」は不変、特商法の行政訴訟

  1面で伝えた通り、特定商取 引法処分の取消し請求訴訟を起 こしていた「ITECINTE RNATIONAL」(以下I 社)が訴えを取り下げた。理由 の返答は得られなかったが、特 商法処分をめぐる事業者側の不 利も背景に窺われる。
 そもそも行政訴訟はハードル が高い。民間の勝率は通常、勝 利的和解を含めても1割に満た ないとされる。代理人のレベル や資金、情報の量・質の差だけ でなく、自らの〝無謬性〟を誇 示する行政の姿勢に沿うかのよ うな判決が珍しくない。
 そのうえ、〝不適正な勧誘・ 取引が行われやすい〟という理 由で強い規制をかけられている 特商法の取引類型に対しては、 否応なく〝悪質事業者に違いな い〟というバイアスがかかる。 よほどの反論材料を揃えない限 り、一旦出た処分を覆すことは ほとんど不可能に近い。
 反論をしようにも、その材料 を揃えるための情報を処分庁が 出さないという、手続き上の壁 もある。
 一例が、2年前に処分取消し 請求訴訟を起こし、控訴審で敗 訴が確定した連鎖販売事業者の 「リゾネット」。弁明機会の付 与において、勧誘された消費者 の氏名や勧誘日時、場所等の情 報が開示されず、反論に必要な 事実関係が確認できなかったと して、行政手続法違反を主張し た。が、裁判所は「かなりの確 度をもって特定することが可 能」とし、消費者のプライバシ ーが優先されることなども理由 に取り合わなかった。
 さらに、処分の妥当性以前の 問題として、停止命令の効力を 一旦停止させることが難しいと いうハードルもある。
 I社は法執行の停止も申し立 てていたが、これが認められな いと、判決が出る前に停止期間 が終 了して「訴えの利益」がな くなる。そうなれば、もはや行 政訴訟を起こす意味がない。
 過去の行政訴訟では、特定継 続的役務に停止命令を受けたエ ステ事業者が執行停止の申し立 てを認められたケースが複数あ るものの、連鎖販売業務をめぐ る行政訴訟で、この申し立てが 認められた事例は過去にまずな いと見られる。
 「リゾネット」の訴訟でも申 し立てを認められなかったが、 停止期間が15カ月という長期に 及んだため、「訴えの利益」が なくなる前に判決に至った。I 社の停止期間は6カ月。急いで 判決を出そうとすれば審理の時 間が圧迫され、事業者サイドの 不利が助長されやすくなる。
 I社は、弁明機会の付与を受 けた段階で、処分の差し止め判 決を求める訴訟を提起。処分後 に提訴したのでは時間が足りな いと判断した可能性もある。
 いずれにしても、行政訴訟に おける民間の分の悪さは当分、 変わることは考えにくい。処分 のきっかけを与えない組織作り が最良の道だ。