アンビット撤退決定 異例だが対岸の火事に非ず

 電気小売りMLMのアンビッ ト・エナジー・ジャパンの日本 撤退決定が業界で関心を集めて いる(4月21日号・同28日号既 報)。昨年からのエネルギー不 足等を背景とする電力調達価格 の急騰に、ロシアの軍事侵攻問 題の影響が拍車をかけ、電気を 売るほどに損をする〝逆ざや〟 が不可避と判断した。MLM固 有の事情ではなく、電力・エネ ルギー問題という国策レベルの 異例の事態が決定打となった。
 同社の活動会員数は愛用会員 が約6万人、ビジネス会員が1 000~3000人。直近の21 年12月期は約80億円を売り上 げ、大手の仲間入りを果たしつ つあった。新電力市場において も、電力販売量ランキングで4 99社中50位(21年12月実績、 大手電力会社を含む低圧部門) につけ、有力企業の一社と見な されていた。
 一方、急激な電力価格高騰を 背景に、新電力市場ではここ数 カ月の間に、同社より規模の大 きいライバル会社が次々と倒産 に陥ったり、事業の撤退・売却 に踏み切っている。今後さらに 電力の調達が難しくなる見通し を踏まえ、新規の申込受付を一 時停止する新電力も増加。同社 はWEBサイトに掲載した撤退 告知文書で競合他社への売却で はない旨を強調したが、その背 景には、本来なら歓迎されるは ずの競合による顧客の受け入れ さえ躊躇せざるを得ない厳しい 状況が窺える。
 ダイレクトセリング系の電気 小売り事業者の撤退自体は、高 騰が起きる前から複数のケース があった。その多くは特商法処 分がきっかけ。「あくびコミュ ニケーションズ」(19年4月処 分→20年2月破産決定)、「フ ァミリーエナジー」(19年12月 処分→21年8月破産決定)など がそれで、撤退こそしていない もの の「東京電力エナジーパー トナー」(21年6月処分)は業 績に大きなダメージを受けた。
 しかし、アンビット社の場合 は、勧誘~契約プロセスとは全 く無関係な事情から撤退を余儀 なくされており、過去のケース とは様相を異にする。撤退にあ たり、全てのビジネス会員には、 3月までの半年間に取得したM LMボーナスの月平均額を基準 に2カ月分の特別ボーナスを6 月に支払うことも予告。〝慰労 金〟を支払ってでも撤退すると いう、まさに異例の状況となっ ている。
 一方、業界の競合の間では、 原材料・輸送費等のコスト上昇 を受けて製品・サービス価格の 引き上げに踏み切るケースが増 えている。電力市場ほど急激な 高騰ではないが、収益が圧迫さ れつつある構造は共通する。多 くの事業者はすでに対策にも乗 り出しているが、今後、さらに 大きな高騰の波がやってくる可 能性は捨てきれない。電力市場 で起きている異例の事態が決し て無関係の話で終わらないリス クを意識すべきだ。