インボイス問題 業界に不利益のみ、再考を

  7月10日投開票の参院選を終 え、与党の政権運営継続が決ま った。ただ、国内経済の重要課 題について有権者の審判を正し く仰げたかは疑問符が付く。そ の一つが、ダイレクトセリング 業界に多大な負の影響をもたら すと懸念されているインボイス 問題。選挙で主要争点には浮上 しなかったが、不安材料は解消 されていない。このまま、来年 10月に制度が始まれば、大きな 混乱をもたらしかねない。
 業界各社にとって最大の懸念 点は、販売員やディストリビュ ーターに年間課税売上1000 万円以下の免税事業者が少なく ない現状を踏まえると、販売員 等へ支払う手数料・報酬に上乗 せした消費税の仕入税額控除を 受けられなくなる可能性がある こと。控除を受けるには、販売 員等からインボイスを発行して もらう必要があるが、発行は課 税事業者への登録が条件。課税 事業者になれば消費税の納付が 求められるため、難色が示され ると予想されてくる。
 仮に、課税事業者に登録して もらえたとしても、納税や関連 事務が重荷となれば、日々の営 業活動に支障をきたすおそれが ある。有力な販売員等はすでに 課税事業者の条件を満たすケー スが多いと考えられるものの、 広い意味で現場を支えているの は、やはり免税事業者にあたる 販売員等。いくら制度で決まっ たこととはいえ、杓子定規な要 請はできない。
 1月には、公正取引委員会と 財務省など4省庁が連名でイン ボイス制度への対応に関する 「Q&A」を公表。免税事業者 に取引価格の引き下げを要請し た場合、優越的地位の濫用や買 いたたきに抵触する考え方が示 された。しかし、最終的な白黒 は、業界特有の取引条件や慣習 を踏まえて個別に判断されると いう 。真に実用的とは言えない 「Q&A」だ。  このため、取材で今後の方針 を訊ねると、多くの企業は社内 で様々なパターンの検証を重ね ている一方、傘下の販売員等に 対してはインボイスに関する具 体的な伝達や指示を行っていな い。それだけセンシティブな問 題であり、様子見の姿勢は何の 不思議もない。
 そもそもの話で言えば、業界 が具体的な動きに踏み出せない 理由には、インボイス制度への 対応を進めても不利益を被るだ けでメリットがない、という事 情が関係している。“労多くし て功少なし”どころではなく、 各社の実感は“百害あって一利 なし”だろう。このような制度 を軽減税率の導入のみを根拠に 押し切ろうとする手法に問題が あるのではないか。
 日本税理士連合会は6月の時 点で、インボイスがなくとも仕 入税額の80%を控除できる経過 措置の延長などを求める意見書 を出している。最低でも、この 意見書のようなレベルの見直し が必要だろう。