本末転倒、結論ありきの「紙」要件化

 既報の通り、7月28日の「書面電子化」検討会で、事務局を務める消費者庁取引対策課が、電磁的交付の要件として事業者が消費者から取得した承諾の“控え”を紙の書面で出す案を示し、一部の事業者側委員を除いて多数の消費者側委員が賛同の意見を述べた。交付のデジタル化を可能とした特定商取引法に、再び紙というアナログな手続きを求める本末転倒さは改めて批判されるべきだ。
 本来であればオンラインで済む電磁的交付に、なぜ、紙の書面を介在させるのか。そもそもの発端は、昨年の法案審議における消費者庁の答弁にある。
 政府参考人として衆院・消費者問題特別委員会に出席した高田潔次長(当時)が、オンラインで完結しない分野において電磁的交付を行う場合、前提となる消費者の承諾は「当面、紙で得ることが考えられる」と説明。法案が衆院を通過した後も、参院で同様の説明を行った。
 繰り返しとなるが、電磁的に済む手続きに紙を必要とする本末転倒の甚だしさは、誰の目にも明らか。しかし、なんとしても電子化を成立させたかった同庁が、苦肉の策として紙の書面による承諾というアイデアをひねり出した形だ。
 また、書面の電子化は一昨年11月、同庁の上部に位置する内閣府の規制改革推進会議で突如浮上し、そこから3カ月足らずで法案に追記された。公の場で一定の議論を経たものではなく、ダイレクトセリング業界にとっても唐突さが否めないものだった。法案が審議に入るまでに、消費者団体を中心に160カ所を超える団体が反対の意見書を出すなど、導入まで異例づくめのプロセスをたどった。
 そして、このような強引な手段を取ってまで導入にこぎつけた電子化規定に、紙の書面を介在させようとすることは矛盾をはらむ。あたかも電子化を成立させたという結果のみが目的で、それが実際に事業者や消費者にとって「使える」かどうかは二の次としか考えていないのではないか――そのように思わざるを得ない。
 電子化が浮上した内閣府の規制改革推進会議において、具体例にあげられたのはオンライン完結型の英会話講習サービスだった。したがって、検討会において事務局が紙の“控え”を必要としない取引類型にあげた、契約の申込~締結をオンラインで完結する特定継続的役務提供は、推進会議における要望を見事にクリアしている。しかし、その影で訪販や連鎖販売は、不意打ち性や対面勧誘性、利益誘引性を理由に紙という不合理な要件を強制されようとしている。計19カ所もの団体・組織をヒアリングし、議論に1年を費やした検討会が、結論ありきの芝居めいた舞台でしかなかったのなら、これほど滑稽なこともないだろう。