インボイス問題 特例案は焼け石に水、最低でも延期を

 来年10月のインボイス制度開始まで残り10カ月を切った。年間課税売上が1000万円以下の免税事業者が開始と同時に制度の適用を受けようとすれば、 来年3月までに「適格請求書発行事業者」に登録する必要があるため、その場合は3カ月強しか猶予はない。しかし、 ダイレクトセリング業界の委託販売員やディストリビューターに多大な負担をもたらすとの懸念は一向に解消されていない。与党が調整をはじめた “特例案”も焼け石に水の域を出ない。このまま踏み切れば、国内経済全体に取り返しのつかないマイナスの影響をもたらしかねない。
 毎年12月に来年度の税制改正大綱をまとめている与党は、この中で、インボイスの影響緩和を目的とする特例案を盛り込む検討を進めている。
 ニュース等で報じられている中身は、免税事業者が「適格請求書発行事業者」に登録して消費税を納めることとなった場合、 その納税額を消費税の2割に抑える案や、年間課税売上1億円以下の事業者が「適格請求書発行事業者」と取引する場合、 事業者の仕入れ額が1万円未満ならインボイスは不要とする案などになる。
 しかし、2割に抑える案は制度開始から3年間しか認めず、不要とする案は6年間に制限。どちらも期間限定に過ぎず、 制度自体のマイナス要素を修正するものではない。
 また、いずれの案も、免税事業者の負担を大きく軽減するほどの救済措置とまではとても言えない。小手先の修正でしかなく、 影響を生じる業界からの反発は日増しに強まっている。

 周知の通り、ダイレクトセリングもその業界の一つ。販売員等に免税事業者が少なくない現状を踏まえれば、仮に、 「適格請求書発行事業者」となってもらえないなら、会社から支払う手数料や報酬に上乗せした消費税の仕入税額控除を受けられなくなる。 制度開始から計6年間、50~80%の控除措置は認められているが、負担が増すことには変わりない。
 また、販売員等が「適格請求書発行事業者」となった場合も、新たに生じる関連事務が重荷となるとともに、納税自体が収益を圧迫。 そのようにして販売現場が細れば、当然、会社の業績にも悪影響を及ぼしてくる。
 公正取引委員会と財務省など4省庁が連名で公表したインボイスに関する「Q&A」は、 登録しない免税事業者と取引価格の交渉などを行う際の考え方を示しているが、最終的な判断はケースバイケース。この点でも混乱が予想される。
 現時点で浮上している与党の特例案は、このような不安要素を払拭するにはとても追いつかない。 制度の影響を受ける業界が満足できる打開策を示せないなら、最低でも制度の延期が必要だろう。