インボイス制度、強行は許されない

 10月に正式導入される「インボイス制度」。しかし、ダイレクトセリング業界の消極的姿勢に大きな変化はない。 前号1面の本紙アンケート企画でまとめた通り、取引する販売員等にインボイス登録を求めるとの回答は約半分にとどまり、 登録に応じてもらえなかった場合の対応は半数近くが未定とした。制度の開始に反対する声は、業界以外のマーケットでも根強い。政府による小手先の緩和措置は、 さらなる反発を招くだけだ。
 インボイス制度でもっとも悪影響を受けると考えられるのが、業界の委託販売員やディストリビューターだ。 これら販売員等には年間課税売上1000万円以下の免税事業者が少なくない。消費税の仕入税額控除を引き続き受けるため、 会社側がインボイス登録を求めても、新たな事務コストと納税負担の発生を嫌って、反発を受けることは必至だろう。やむなく登録しても、 それで販売活動に支障をきたせば、結局は会社側の売上や新規獲得に響いてくる。
 昨年11~12月に集計した本紙アンケートでは、販売員等へ「すでに登録を求めた」もしくは「登録を求める予定」と回答した会社が全体の52%を占めた一方、 「どうするか未定」との回答も35%に達した。開始まで残り1年を切ったタイミングにもかかわらず、これだけの会社が対応を決めかねている時点で、 制度自体が大きな課題を抱えているのではないか。
 また、免税事業者の販売員等が、インボイスを発行できる適格請求書発行事業者に移行しなかった場合の対応については、 48%が「何ともいえない/どうするか未定」を選択。「取引を行わない」もしくは「取引の内容・条件の見直しを求める」との回答は28%にとどまった。 インボイスがなければ仕入税額控除が出来ず、経過措置を踏まえても会社の収益に悪影響をもたらす。しかし、 販売員等との関係を悪化させることも避けたいというジレンマが容易に窺える。
 政府は、批判をやわらげる狙いで、インボイス登録しても3年間は納税額を本来の2割に抑え、 適格請求書発行事業者からの仕入れ額が1万円未満なら6年間はインボイスがなくとも仕入税額控除できる緩和策を追加導入する考えを示した。だが、 負担が増すことに変わりはない時限措置。焼け石に水の政策であることは大半の業界関係者の目に明らかだろう。アンケートでは、インボイス制度の賛否も調査。 開始に「反対」の回答が30%を占め、「賛成」の6%を大きく上回った。  インボイス制度で増える税収は、政府の試算によれば二千数百億円程度。その規模をはるかに超える悪影響が国内市場にもたらされ、 DS業界では販売員等の活動をやりにくくさせることになる。このままの強行は許されない。