「明瞭」「平易」要件、明快な指針を

     6月1日の施行が決まり、政省令も公布された特定商取引法の「書面電子化」規定。しかし、説明義務や適合性の確認、紙による承諾の控えの提供、 交付後の受領・閲覧確認等々、クリアしなければならない手続きが何段階にも渡って設けられ、本来の目的だった利便性は二の次。 さらに、法定記載事項の表示や説明の仕方については、「明瞭」「平易」という具体性に欠ける要件も指定されており、 電子化に前向きな事業者にとって悩みの種となっている。
 「明瞭」要件は、電磁的方法で提供される法定記載事項が消費者に正しく伝わることを担保する目的で導入された。訪問販売の場合は、 省令の第8条第3項で「書面に記載すべき事項を提供するときは、申込みをした者が当該事項を明瞭に読むことができるように表示しなければならない」 と指定。連鎖販売など他の5取引類型の電磁的交付も同じ要件が課されている。
 省令を策定した消費者庁は、反対意見が根強かったスマートフォンしか所有しない消費者にも電磁的交付を可能とすると決定。一方、 スマホの小さな画面を悪用した交付が行われるリスクを排除するため、「明瞭」要件を設けたと説明する。
 「平易」要件は、法定書面の記載事項の重要性やクーリング・オフの行使期限といった説明義務事項について、消費者の理解を担保するため導入。 訪販は省令の第条第2項で、事業者による説明は「申込みをした者が理解できるように平易な表現を用いなければならない」とされた。
 一方、「明瞭」な表示や「平易」な表現をどのように行えばいいのかについては、具体的な記載が省令に見当たらない。 特商法の過去の改正を振り返れば、 「日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える」商品等の契約を禁じた過量販売規制や、「契約を締結しないない旨の意思を表示」 した消費者への勧誘を禁じる再勧誘規制で、曖昧さを理由とした混乱が現場に生じてきた。書面電子化においても、「明瞭」 「平易」のあり方をめぐって類似の混乱を生む可能性がある。消費者庁は、それぞれの要件の詳細をガイドラインや逐条解説で明快に示すことが求められる。
 消費者庁は、「明瞭」要件についてはガイドラインで表示の具体例を示す方針を明らかにしており、 スマホを含む電子機器の画面上でどのような表示が求められるか図示する案も念頭に置いている。が、「平易」要件に関しては、現時点で、 ケースバイケースで判断していくことになるとの見通ししか示しておらず、ガイドライン等による補足には消極的。しかし、 あたかも“多重ロック”のような手続きを電子化に求めるなら、要件の詳細を具体的に示す最低限の責務があるはずだ。