書面電子化 メリット骨抜き、活用は困難

     改正特定商取引法で6月1日より可能となった法定書面の電子化。紙媒体に縛られていた多くのダイレクトセリング事業者が電磁的交付に乗り出しておかしくないが、 逆に皆無に等しい状況を生じている。消費者保護の名目で、政省令による何重ものハードルが課されたためだ。業界は蚊帳の外のまま、電子化ありきの政府方針が優先され、 使い物になるとは言えない〝いびつ〟な制度が生まれてしまったと言わざるをえない。
 最大のハードルは、電磁的交付を受けることへの承諾を消費者から取得した場合、そのことを「証する書面」を紙媒体で渡す必要があること(概要書面除く)。 2年前、国会で法案を審議した段階で、消費者庁の次長が、オンラインで完結しない取引は紙媒体で承諾を取得させるアイデアを説明。その後、 1年以上をかけた有識者会議の議論でも消費者側委員の大半が賛同を示し、ルール化された。
 デジタルメリットの実現を目指した電子化に、紙というアナログな手続きを求める本末転倒は、誰の目にも明らか。〝政治案件〟 としての電子化の成立を至上命題とされた消費者庁が、苦肉の策として持ち出したに過ぎない。しかし、事業者側委員を中心に繰り返された指摘は、 ほとんど顧みられることがなかった。
 さらに数多くのルールが事業者に義務付けられた。承諾取得前の説明、消費者のデジタル適合性の確認、第三者に対する電子書面の同時交付の確認、 電子書面の受領・閲覧確認――などだ。デジタル方式を認められた承諾取得プロセスも、一般に広く普及したチェックボックスはNGとされ、「説明の内容を理解した旨」 を記入してもらわなければならない。説明・記載事項にかかわる「明瞭」「平易」要件も設けられた。
 いずれのルールも、紙媒体による従来型の交付では求められない。現場の販売員やディストリビューターに対して、これだけの手間暇を新たに求めることになれば、 よほどデジタルに精通しているのでない限り、反発さえ生じておかしくない。
 一方、有識者会議における合意事項として、電磁的交付が可能な電子機器の対象から外される見通しだったスマートフォンは、突如として消費者庁が容認に転換。 その直前には、内閣府の規制改革推進会議のワーキンググループで〝スマホ外し〟を再考する方針が示され、デジタル庁のデジタル臨時行政調査会の職員から 〝スマホでも書面の内容を問題なく把握できる〟〝書面と同様の大きさ、レイアウトを前提とする必要はない〟と意見されていた。〝スマホ容認〟自体は業界にとって歓迎されるものの、 強引な方針の転換は「証する書面」をめぐる本末転倒さと表裏一体。制度のゆが みの一因となっている。