特商法の執行 必要か、KPIに「被害推計額」

    国の消費者政策の方針を定めた「消費者基本計画」の「工程表」が改定され、特定商取引法執行のKPIに、処分した事業者の売上高等に基づく 「消費者被害推計額」が成果目標として盛り込まれた(6月22日号1面既報)。しかし、過去の行政事業レビューで執行実績の代替指標に利用されてきた推計額は、 処分事業者の売上を単に合算しただけと見られる。過去のレビューで批判的意見も出ており、KPI化には疑問符がつく。
 改定された「工程表」のKPIは、従来からあった処分件数などに加えて、法執行等にともない獲得される中期的成果目標として、処分事業者の過去の売上高、 契約金額の推定累計額を元に算出した消費者被害の推計額を追加。「定量的な評価がしやすい」ことが理由という。
 推計額のKPI化は突然に出てきた話ではない。行政機関における事業の進捗・効果を査定し、予算を左右する行政事業レビューにおいて、 推計額の大きさが実績の一つに強調されてきたからだ。
 22年度第2次補正予算をめぐるレビューでは、過去3年度分の推計額を記載。19年度の4200億円、20年度の2024億円に対して21年度は5兆3307億円と、 その巨額さが際立った。
 消費者庁の説明によれば、21年6月に電気・ガスの電話勧誘販売業務へ停止命令を出した「東京電力エナジーパートナー」の推計額が反映されているという。 同社は処分直前の21年3月期に約5兆343億円を売り上げていた。説明を踏まえると、年間売上の総額をまるごと被害額として計上したとみられる。
 しかし、同期に顧客と結んだすべての契約で特商法違反やそれに類する不法行為が確認されたならともかく、その可能性は非常に低いはず。処分の際、 消費者庁が公表した違法行為の認定事例は8ケースだった。売上全体を被害額とみなして、予算要求とリンクした執行の実績として強調し、更には「工程表」 でKPI化することの妥当性が問われるのではないか。
 20年度の行政事業レビューでは、「被害推計額」を引き合いに「消費者被害の拡大を防ぐことができた」と自賛する消費者庁に対して、外部有識者から 「評価の難しいところ」「事件の発生から行政上の措置に至る時間の短縮が望まれる」という批判的意見も出ている。
 推計額に近い性質をもち、毎年度の消費者白書でまとめられている「消費者被害・トラブル額」も、 消費者行政の成果を測定する上で効果的な指標と位置付けられているが、2年前、プログラムの欠陥を要因とした「計算ミス」で、 最大9000億円分の修正を余儀なくされている。せいぜい参考値として扱うべきではないのか。