インボイス、10月開始は無謀

    10月の「インボイス制度」開始が迫り、ダイレクトセリング業界の憂鬱が高まっている。 免税事業者に該当する販売員等が適格請求書発行事業者として登録しなかった場合、どのように取引するのか。今号1面の本紙アンケートでは、 いまだ3割の会社が対応を決めかねていた。残り2カ月を切る中、様々な懸念材料は解消されるどころか増大している。影響はDS業界にとどまらず、 業態・取引形態を問わずに国内経済全体へ及ぶ。このままの強行は無謀だ。
 免税事業者に該当する販売員等が適格請求書発行事業者に登録することは、課税事業者に移行することを意味する。課税事業者となれば、 年間課税売上がいくらであろうが、消費税の納付を行わなければならない。売上が数百万円レベルの個人事業主にとっては手痛い出費だ。 そのため可能な限り、適格請求書発行事業者へ登録しないという動機が働くことになる。
 一方、販売員等と取引するDS会社は、未登録の販売員等からは適格請求書=インボイスの発行を受けることができない。 その場合、販売員等に支払う手数料・報酬に含まれる消費税の仕入税額控除を受けることができず、納税負担が増す。
 開始から計6年間は、適格請求書がなくとも消費税の80%ないし50%を控除できる経過措置期間が設けられたが、控除できる金額が削られ、 6年経てば控除不可となることには変わりない。適格請求書発行事業者に登録した個人事業主に対しては、その後の3年間、 消費税の納税額を売上税額の20%に抑えるとも決められたが、やはり時限措置に過ぎない。
 このように制度自体が手詰まり感に覆われる中では、DS業界も効果的な対応を取りようがない。1面のアンケートで、 免税事業者に該当する販売員等が適格請求書発行事業者に登録しなかった場合の対応を聞いた結果、30%が「検討中/未定」を選択した。
 未登録の販売員等に支払う手数料・報酬における、消費税の取り扱いについても、同じく40%が「検討中/未定」とした。 アンケートの回収期間は6月下旬~7月下旬。過去に業界が対応を求められた法制度で、開始まで2~3カ月というタイミングになっても、 3~4割もの会社が対応を決めかねている事態は目にしたことがない。
 見方を変えれば、例えば消費税の取り扱いについては、残りの60%は方針を固めていると言うこともできる。しかし、 万全の対応で臨めるというわけでは全くない。これまで通りの支払いを続けるなら会社側の納税負担が増えるし、 消費税分を削減・削除する場合は販売現場との関係を悪化させるおそれがある。どちらを選んでも現状の維持にすらほど遠い。10月開始は再考すべきだ。