必要なのか、「書面電子化」監視予算

 消費者庁が2024年度予算の概算要求をまとめ、特定商取引法関連で2名の増員と「書面電子化」規定の継続監視予算を求めた(前号4面既報)。このうち後者の額は3200万円。 しかし、ダイレクトセリングの業界ではほとんどの事業者が電子化に後ろ向きで、監視を要するような状況に程遠い。一部のアウトサイダーの悪用に目を光らせるにしても、 金額として過大に過ぎるのではないか。
 今年6月に施行された特商法の「書面電子化」規定。事業者による活用状況などをモニタリングするとして、消費者庁は、3200万円全額を「重要政策推進枠」の利用で求めた。 特商法を運用する取引対策課の予算は2億5180万円を要求したため、全体予算の%を電子化関連で占めることになる。
 実は、このモニタリング予算の計上は初めてではない。年度も3500万円を要求。ただ、この時は財務省に要求を見送られた後、年度補正で改めて4000万円を求め、 満額が認められた。この補正で計上された4000万円を使い、秋以降、初のモニタリング業務の委託を公募するという。
 一方、業界を見渡せば、電子化規定の施行から3カ月以上を経過した今も、紙媒体だった法定書面をデジタル交付に切り替えたという事業者は見当たらない。本紙は8月3日号で、 各社の電子化への意向を聞いたアンケートを掲載。集計の結果、有効回答社の9割超は、電子化を検討中か、そもそもその意向を持っていなかった。本紙は、改正法が成立した2年前にも、 同様のアンケートを実施。この時は3分の1が電子化を「行いたい/行う予定」と回答していたが、様変わりしている。

   そして、これも周知の事実だが、業界が電子化に二の足を踏む最大の理由は、何重もの要件を課し、複雑怪奇なルールを定めた消費者庁にある。その一つが、 電子化への承諾を得たことを証する書面を紙媒体で提供する義務。デジタルにアナログを持ち込む本末転倒ぶりは批判を受けたが、結局、押し通された。 ほかにも消費者のデジタル適合性を確認する義務や、消費者のもとに電子書面が到達したことを確認する義務など、上げ出せば切りがない。
 電子化が進んでいないのはDS業界だけではない。ある特定継続的役務提供の業界団体は、施行に合わせて加盟社向けの電子化セミナーを開いたが、事務局によれば、その後、 実際に電子化に向けて動いている事業者はいないという。
 電子化が可能となったのは事実だが、実際に事業者の間で電子化が始まっているかというと、実態は全くそうではなく、その原因は消費者庁が作ったものだ。そこにあえて、 3200万円もの監視予算が求められるのか。精査が必要だ。