「見せる施策」の到達点

 1面で報じている通り、化粧品企業のアシュランは、創業来、「見える施策」「見せる施策」を展開してきた。訪問販売であれ連鎖販売取引であれ、 ダイレクトセリングという業態は「消費者から分かりづらい」という指摘を長年受け続けてきた。アシュランでは、事業の透明性を確保する一環として、 多くの自社施設において、会員が見学できるコースを用意し、初めてアシュランというブランドに触れた人でも、目に見えるかたちで事業を紹介してきた。
 例えば、佐賀県鳥栖市にある自社工場「サンセールミキ鳥栖工場」には、工場内に見学用通路を設けられており、 会員や愛用者がものづくりの現場を直に見ることができるようになっている。また、福岡県大野城市の本社敷地内にある配送センターに見学コースが用意されており、 商品の保管・梱包・出荷の様子を間近に見ることができる。こうした施設を会員や愛用者に「見せる」ことでブランドの信頼性を獲得する取り組みは、 現在では他社でも行われているが、アシュランが事業をスタートさせた30年近く前では、希少なケースだった。
 アシュランの施設は、このほかにも鹿児島県出水市に酒造工場やホテルなどがあるが、大野城市の本社敷地および周辺施設が、同社の「見せる施策」を最も体現していると言える。 本社、配送センター、セミナー棟、バードハウス、美術館、スパハウス、ベーカリー&カフェ、ホテルと、周辺の地域との調和を保ちつつ、 一目で「アシュランの施設」であることが分かる、多種多様な設備だ。施設の多くは会員だけでなく一般も利用することが可能で、平日・休日を問わず、 近隣の住民などが敷地内を訪問している。バードハウスや美術館は入場無料で、家族連れでの訪問や、学校の課外活動などにも活用されている。ベーカリー&カフェは、 手頃な価格でさまざまなメニューを味わえることもあって、昼食時には賑わいを見せる。広大な敷地、明るく清潔感のある施設と相まって、開放的な雰囲気が特徴的で、 「消費者から分かりづらい」という、ダイレクトセリングが抱えていたクローズドなイメージとは対極にあると言える。敷地内にはスタッフの子どもが通う保育施設も併設され、 昼には食堂で親と一緒に食事をすることも。親子の時間を共にすることができるほか、食育の時間でもあるようだ。
 「見せる施策」を継続してきたことで、アシュランは地域に根づいた企業として地位を確立してきた。企業の施設と言うと、会員の利用だけに限定されがちだが、 同社は収益を会員だけでなく、「社会に還元する」というスタンスを一貫して実践し、目に見えるかたちで実現している。「地域密着」の1つの到達点と言えるかもしれない。