「価値観の多様化」にカギ

  コロナ禍を経てライフスタイルや価値観の多様化が進んだ現在、性別を問わず、特定のニーズにフォーカスしたブランドを開発する取り組みが活発だ。
 ポーラが7月にスタートした新プロジェクト、冷凍宅食惣菜「BIDISH」は、2022年に開始したクラウドファンディングをきっかけに、新市場創出を目的に本格稼働を始めた。 ライフスタイルの多様化を背景に、美にフォーカスした冷凍食材を提供することで、同社が化粧品事業でも提唱している「自分らしくある」ことをサポートするという。新しい試みとして、 JR東日本の品川駅および大宮駅構内において、「BIDISH」専用の自動販売機を期間限定で設置している。
 国内化粧品市場は、コロナ禍における縮小から一転し、今後は国内の需要回復が見込まれるほか、インバウンド需要の増加にも期待がかかる。同時に、 超高齢化社会を迎える日本では急速な少子化が進んでおり、化粧人口の減少が喫緊の課題となっている。こうした時代の流れを背景に、同社は美容領域における事業の拡大を図っており、 「BIDISH」もその一環という位置づけとなる。また、ポーラ・オルビスホールディングスでは、「美肌ウェルネスプロデュースプロジェクト」において、 島根県の温泉を対象とした研究による6種類の美肌泉質の知見を活かし、島根県のサポートを得て、身体と心のウェルネスと美を目指した体験プログラムの構築を開始した。 「美容領域における事業拡大」という取り組みは、業界全体に広がる可能性もある。
 例えば、化粧品市場では、男性用化粧品、即ちメンズコスメも引き続き成長市場として注目されている。以前からメンズコスメは未開拓の市場と目されており、 実際にメンズコスメブランドを揃えている企業も少なくないが、長年の間、女性用化粧品とは異なるアプローチが求められることから、大きなシェアを獲得するまでには至らなかった。 だが、メンズコスメは近年、若年層を中心に習慣化が浸透しつつあり、需要が増加傾向にある。また、コロナ禍で在宅時間が長くなったことなどを背景に、「おうち美容」の需要が増加し、 男性の美意識も高まった。シーボンは昨年、メンズスキンケア「XYCモイストクレンジングマセ」をクラウドファンディングで販売した。「スキンケアに興味はあるものの面倒なステップは嫌」 という男性の声を踏まえ、同社の男性社員が「自ら使いたいスキンケア」を開発したものだという。
 このほかにも、「ジェンダーレス」というアプローチで男性層に訴求する取り組みも活性化している。メンズコスメは長らく難しい市場とされてきたが、価値観の多様化が攻略のカギとなるかもしれない。