開業規制調査、消費者庁の本気度は

 消費者庁が着手する、海外主要国における消費者トラブル対策の実態調査に、連鎖販売取引の開業規制が含まれることとなった(12月21日号1面既報)。これまでに国が連鎖販売の開業規制を公の場で検討したことはなく、 海外事例の調査も初めて。ある意味、画期的な試みと受け止められる一方、得られたデータがどのように活用されていくか、現時点ではっきりしない。
 調査予定国はアメリカ、イギリス、EU、韓国の4カ国・連合体。アメリカの州とEUの加盟国は対象外だが、特筆すべき取り組みがあれば調査するという。リサーチ会社に委託する調査の時期は24年1月〜3月で、春には結果が出る見通しだ。
 国が連鎖販売の開業規制を調べるのは今回が初。それどころか、開業規制自体に否定的だったことを踏まえると、大きな方針転換と言える。
 直近では、23年3月の衆議院・消費者問題特別委員会で、仮想通貨取引の連鎖販売で大きな被害を生んだ「ジュビリーエース」事件を例に、連鎖販売の事前審査・登録制の見解を野党議員から問われた河野太郎消費者相(当時)が、 「審査しなければならないので、かなりの行政コストがかかる」「コストとその効果が見合うのかどうか若干疑問」「特定の連鎖販売業者に事実上のお墨付きを与える」「(開業規制は)あまり良い案ではないのではないか」と述べていた。
 では、行政コストとお墨付きリスクの観点から否定的だった開業規制を何故、調べるのか。大きい理由が、全国の地方議会や弁護士会から相次ぐ、特商法改正を求める意見書だ。11月末時点で議会は八十数カ所、弁護士会は30カ所以上に達し、 そのほとんどが連鎖販売規制の有力手段として開業規制を求め、これが消費者庁に圧力となっている。意見書は不招請勧誘規制の強化も求め、やはり海外の実態調査が予定されている。
 一方、調査対象の4カ国・連合体のうち、MLMの開業規制が知られるのは韓国だけ。運用実績は約20年と長いものの、事例としては1カ国のみとなる。アジアを例に取ると、台湾やベトナム、マレーシア、 インドネシアなどにおけるMLMの開業規制が知られているが、今回の調査では対象とされていない。韓国のデータが得られたとしても、比較対象事例がなければ参考にしづらいことになり、調査の意味が薄れてくる。
 また、同庁担当者の説明によれば、韓国が調査対象とされた理由には、消費者保護の取り組みやデジタル取引への対応が進展している点が大きいと言い、開業規制の存在が必ずしも理由に含まれていない可能性がある模様。 開業規制が調査のメインターゲットではないこともあって、今後の展開に読めない部分を残している。