行政の差止申立権、検討の行方は

 前号で伝えた通り、2000億円超の被害を生んだ「ジャパンライフ」事件などに代表される悪質・深刻な消費者被害を早期に防ぎ、被害救済につなげる手立てを検討するため、消費者庁が研究会を立ち上げる。主要テーマの候補には、行政から裁判所に対する差止命令の申立て制度が含まれており、10年以上に渡って”棚上げ状態”だったアイデアがどのような展開を見せるか注目を集める。
 仮に具体化しても、ジャ社のような極端に悪質なケースがターゲットになってくると考えられるため、ダイレクトセリング業界に直ちに影響を及ぼすとは考えにくいものの、制度上は適用が可能な仕組み。関心を向けざるを得ない。
 一刻も早く被害を食い止めるため、ジャ社のような悪質事業者の事業の差し止めを裁判所に申し立てる権限を消費者庁等の行政に与えるアイデアは、決して新しいものではない。消費者庁の中では、2011年に「財産の隠匿・散逸防止策及び行政による経済的不利益賦課制度に関する検討チーム」がまとめた報告書で、破産手続き開始の申立て権を付与することが提案されている。
 この報告書を引き継ぐ形で発足した「消費者の財産被害に係る行政手法研究会」は、13年の報告書で、やはり破産手続き開始の申立て制度を取り上げるとともに、差止申立権を提案していた。しかし、その後は庁内で検討の対象になることなく、ここまで11年に渡って宙に浮いた状態が続いていた。
 この”棚上げ状態”を転換させるきっかけとなったのが、昨年12月の自民党・消費者問題調査会による政策提言。消費者法制度のパラダイムシフトを求める一環として、「悪質かつ深刻な消費者被害が急速に拡大する場面に厳格に対応するためには、例えば、裁判所を介した手続の活用も含めた実効性の高い手段等が考えられる」と提案した。
 同様の要請は、一昨年に成立した改正消費者裁判手続特例法の附帯決議でも行われたが、決議に法的効力はなく、消費者庁も動かなかった。昨年11月までの国会でも、ジャ社のような”破綻必至商法”への法的対応を求める野党議員の主張に対して、消費者担当大臣の答弁は玉虫色に終始していた。やはり、自民党の提言を受けて一気に風向きが変わったことになる。
 一方で、研究会の運営は民間事業者に委託され、同庁の担当課が直接にはかかわらず、検討の結果の法制度化も現状で見据えていない。差止命令の申立て制度は、消費者委員会のワーキンググループがまとめた報告書を踏まえて、消費者委員会が昨年、意見書として同庁に提出しているが、これを踏まえた検討も今のところ予定しないという。消費者庁内の”勉強会”に収まる可能性もありそうだ。