事業の見える化≠フ現在 老舗化粧品企業の取組み

真の地域密着≠ニは何か



 ダイレクトセリング化粧品分野では、長年にわたって「事業の見える化」をコンセプトとした取り組みが行われてきた。コロナ禍によって潮目が変わり、変革の時期を迎えているサロンビジネスにしても、当初は、従来型訪販の課題であった「分かりづらさ」に対する1つの解という役割を担っていた。それが、消費者のニーズと合致して新たな顧客接点として受け入れられたことから、多くの企業でサロンビジネスを導入する流れに至った。地域密着型のサロンは、当初は珍しく他ブランドとの差別化に寄与していたが、それが普遍化すれば必然的に付加価値は下がっていく。サロンビジネスを浸透させたポーラ(本社・東京都品川区、小林琢磨社長)は、現在業績面で苦境にあるが、その要因の1つとして、サロン自体のブランド価値が以前に比べて低下していることは否めないだろう。これに対し、同社は新たなスタイルのサロンのあり方を提唱し、今年中にはその姿が明らかになる予定だ。

 一方、業界で一般的なサロンビジネスとはまったく異なるアプローチで「見える化」を実行し、地域密着の企業・ブランドとして定着しているケースもある。その筆頭はアシュラン(本社・福岡県大野城市、東孝昭社長)だろう。本社のある大野城市では、1万5000坪の敷地内には、本社(事務棟)、配送センター、セミナー棟、バードハウス、スパハウス「テルマアル」、ベーカリー&カフェ「ルコネッサン」、アシュラン美術館と、実にさまざまな施設が用意されている。各施設で働くスタッフの子どもたちが入園する託児施設「ふくろう園」(鳥栖工場、関東支店にも併設)も併設され、お昼休みには親子で昼食をとる姿もみられる。また、本社敷地に隣接する「グランドエンパイアホテル」では、宿泊や婚礼をはじめ、会議やスポーツ関係など、多様なニーズで利用されている。
 これらの施設のうち、バードハウス、スパハウス、ベーカリー&カフェ、美術館、ホテルは一般にも開放されており、バードハウスや美術館は入場無料。特に、「アシュラン美術館」は、東社長・副社長夫妻が約30年にわたって蒐集した古今東西の約2900点もの美術品が収蔵されており、貴重な作品も少なくない。歴史的にも美術的にも価値のある作品を間近で、しかも無料で鑑賞できる施設は大変希少であることから、最近ではSNSを中心にクチコミが広がり、休日には家族連れなど、1日あたり約200人との来館者で賑わうことがある。
 また、東社長の出身地である鹿児島県出水市でも、焼酎づくりを手がける出水酒造、ハイグレードなサービスを提供する「ホテル泉國邸」、さまざまな農産品を生産する出水農産、そして、昨年設立されたグァバ茶ペットボトルの製造・販売を行う出水ヘルスウォータと、幅広い事業を展開している。「見える化」と同時に、地域の雇用創出や経済活性に大きく寄与している。

 オッペン化粧品(本社・大阪府吹田市、瀧川照章社長)が毎年5月に実施しているイベント「ローズウィーク」は、本社敷地内にあるばら園「オッペンローズガーデン」を一般に無料公開する取り組みで、初回の2014年から毎年5月に開催されている。「オッペンローズガーデン」に植えられているばらは337種3500本にも及び、この時期は、「エリカ87」「リベラ87」といったオリジナル品種のばらが満開となる。ばら園は関西でも有数の規模で、初回開催から10年以上が経過し、季節の風物詩として定着した「ローズウィーク」を毎年楽しみに訪れる人も多い。
 「ローズウィーク」が地域密着型イベントして受け入れられているのは、地元自治体や企業・団体との連携があることも大きい。これまでに、オッペン化粧品主催による美容セミナーのほか、隣接する大阪学院大学とのコラボレーションイベント、吹田市など自治体と連携した取り組みなども行われ、昨年はオープン初日に吹田市の後藤圭二市長が訪問して、瀧川社長やばら園を訪れた市民と交流する場面もみられた。

 アシュラン、オッペン化粧品、いずれの企業の「見える化」の取り組みも、企業単体ではなく、近隣住民をはじめとする周囲との連携を1つの強みとしている。この分野が従来型訪販の時代から得意としてきた、人とひとのつながり≠現代のニーズに沿ったかたちで体現することが、「見える化」が受け入れられるカギと言える。

(2025年4月10日号参照)