事業の見える化≠フ現在 老舗化粧品企業の取組み
真の地域密着≠ニは何か

一方、業界で一般的なサロンビジネスとはまったく異なるアプローチで「見える化」を実行し、地域密着の企業・ブランドとして定着しているケースもある。その筆頭はアシュラン(本社・福岡県大野城市、東孝昭社長)だろう。本社のある大野城市では、1万5000坪の敷地内には、本社(事務棟)、配送センター、セミナー棟、バードハウス、スパハウス「テルマアル」、ベーカリー&カフェ「ルコネッサン」、アシュラン美術館と、実にさまざまな施設が用意されている。各施設で働くスタッフの子どもたちが入園する託児施設「ふくろう園」(鳥栖工場、関東支店にも併設)も併設され、お昼休みには親子で昼食をとる姿もみられる。また、本社敷地に隣接する「グランドエンパイアホテル」では、宿泊や婚礼をはじめ、会議やスポーツ関係など、多様なニーズで利用されている。
これらの施設のうち、バードハウス、スパハウス、ベーカリー&カフェ、美術館、ホテルは一般にも開放されており、バードハウスや美術館は入場無料。特に、「アシュラン美術館」は、東社長・副社長夫妻が約30年にわたって蒐集した古今東西の約2900点もの美術品が収蔵されており、貴重な作品も少なくない。歴史的にも美術的にも価値のある作品を間近で、しかも無料で鑑賞できる施設は大変希少であることから、最近ではSNSを中心にクチコミが広がり、休日には家族連れなど、1日あたり約200人との来館者で賑わうことがある。
また、東社長の出身地である鹿児島県出水市でも、焼酎づくりを手がける出水酒造、ハイグレードなサービスを提供する「ホテル泉國邸」、さまざまな農産品を生産する出水農産、そして、昨年設立されたグァバ茶ペットボトルの製造・販売を行う出水ヘルスウォータと、幅広い事業を展開している。「見える化」と同時に、地域の雇用創出や経済活性に大きく寄与している。
オッペン化粧品(本社・大阪府吹田市、瀧川照章社長)が毎年5月に実施しているイベント「ローズウィーク」は、本社敷地内にあるばら園「オッペンローズガーデン」を一般に無料公開する取り組みで、初回の2014年から毎年5月に開催されている。「オッペンローズガーデン」に植えられているばらは337種3500本にも及び、この時期は、「エリカ87」「リベラ87」といったオリジナル品種のばらが満開となる。ばら園は関西でも有数の規模で、初回開催から10年以上が経過し、季節の風物詩として定着した「ローズウィーク」を毎年楽しみに訪れる人も多い。
「ローズウィーク」が地域密着型イベントして受け入れられているのは、地元自治体や企業・団体との連携があることも大きい。これまでに、オッペン化粧品主催による美容セミナーのほか、隣接する大阪学院大学とのコラボレーションイベント、吹田市など自治体と連携した取り組みなども行われ、昨年はオープン初日に吹田市の後藤圭二市長が訪問して、瀧川社長やばら園を訪れた市民と交流する場面もみられた。
アシュラン、オッペン化粧品、いずれの企業の「見える化」の取り組みも、企業単体ではなく、近隣住民をはじめとする周囲との連携を1つの強みとしている。この分野が従来型訪販の時代から得意としてきた、人とひとのつながり≠現代のニーズに沿ったかたちで体現することが、「見える化」が受け入れられるカギと言える。