ダイレクトセリング化粧品 新規事業で基盤強化

老舗中心に広がる動き 長年のノウハウを活用



 ダイレクトセリング化粧品分野では、消費者のライフスタイルや購買行動、価値観の多様化に伴ってビジネスモデルを変化させる動きが盛んだ。特にコロナ禍以降は、店舗販売やECに連動した手法を採用する場合が多く、特に老舗企業ではそれが顕著だ。主力事業で販売員の高齢化が進み、将来的な先細りが懸念される中、事業継続のための「次の一手」を模索する目的だが、抜本的な対策を見出だせていないのが現状だ。その傍らで、まったく新規の事業を立ち上げ、多角化によって基盤強化を図る取組みも老舗を中心に多くみられる。新たに進出する分野は企業によって異なるが、美容・健康関連でこれまで培ってきたノウハウを活用するケースが多いようだ。

 

新規ユーザー獲得
狙うヘアケア事業

 2026年に60周年を迎えるシーボンは、ロゴマークの変更、「フェイシャリストサロン」で施術やカウンセリング、販売を行うフェイシャリストの制服のリニューアルなどを行うとも、同社初のジェンダーレスサロンとして「シーボン コンセプトショップ」を東京・六本木のシーボンビルにオープンするなど、新しいブランドイメージ構築を進めている。その傍らで新規事業の創出にも着手しており、2024年1月にヘアケア事業を立ち上げ、トリートメント専門店「イマトリ」の1号店を春日(東京)にオープンしたのを皮切りに、大森(東京)、伊勢崎町(神奈川)と店舗網を拡大している。トリートメントを手軽に通いやすい価格で提供することをコンセプトとしており、ネーミングは、「今すぐトリートメントさせてください」に由来。基本工程は人の手を介さず、トリートメントの施術のみを国家資格(美容師資格)を保有するスタッフが行う業務フローによって、業務を効率化。これにより、通常の美容室で行うものと同等のサロントリートメントを、1500円(税込1650円)という手頃な価格で提供できるという。施術終了までの所要時間は約15分が目安で、比較的高額な「フェイシャリストサロン」とは異なるユーザー層の開拓を図り、事業の多角化によってサロン事業の弱体化をカバーする狙い。
 シーボンは、これまでも新規事業に進出する動きを見せてきた。2016年6月にはオーダーメイドウィッグの販売を開始しており、現在も継続している。同社の会員層は20代〜80代と幅広いが、メーンはミドル世代以上の女性。エイジングケアの悩みとニーズがこの年代にフォーカスしたウィッグ販売は、グループのヘアサロン「neaf」と連携し、会員1人1人に合わせたフルオーダーメイドの商品。素材・製法をはじめ、ナチュラルな仕上がりにこだわった高品質ウィッグを訴求している。販売・対応は、会員とのつながりをもつスタッフ(フェイシャリスト)がカウンセリングを行いながら実施。最終仕上げはヘアサロン「neaf」の現役美容師が行い、自分だけのナチュラルなウィッグ≠提供し、差別化を図っている。また、2021年9月には、結婚相談所「シーボン マリアージュサロン」を東京・六本木に開設。サロンでのケアや婚活コーチによる個別指導によるサポートで訴求したが、競合とのバッティングや、マッチンアプリへのニーズシフトなどを背景に業績が伸び悩んだ結果、2023年8月をもってブライダル事業から撤退した。前出のヘアケア事業は、ブライダル事業撤退後にスタートした新規事業。本業に比べればその規模は微々たるものだが、新規マーケット創出を図る姿勢は、他の老舗企業よりも強いが、その裏には本業縮小への危機感がある。

新ブランド展開
背景に訪販縮小

 御木本製薬はこのほど、新規事業として化粧品ブランド「LINK+U」を立ち上げ、4月4日から販売を開始した。取り扱うのは別会社として立ち上げた「株式会社LINK」で、主力の「ミキモトコスメティックス」ブランドとは異なるマーケットに乗り出した。新ブランドでは、洗顔料、化粧液、保湿乳液の4品を販売(3850円〜5940円)し、30代女性をメーンターゲットとしている。海藻をはじめとした自然由来の素材を採用し、独自の処方技術とともにナチュラルとサイエンスを融合したスキンケアブランド≠ニして、真珠由来の成分でハイブランドとして訴求してきた「ミキモトコスメティックス」とは異なるユーザー層の開拓を狙う。販売チャネルは公式オンラインストア等。時代のトレンドに合わせてSNSを積極活用し、デジタルツール世代へのアピールを強めていく。
 老舗企業ではありがちなことだが、既存の販売組織とのあつれきを懸念するあまり、新規事業に乗り出したくても躊躇するケースが散見される。それが新たな化粧品ブランドの立ち上げとなればなおさらだ。昭和18年に創業し、80年以上の社歴をもつ同社がここにきて新会社、新ブランドを立ち上げた背景には、やはり既存の販売組織の縮小という課題が挙げられる。一方で、販売員自身の購買行動自体が変化し、ECなどへの抵抗感が以前ほどなくなってきたこともある。これに加えて、業界全体の流れとして、主力の化粧品販売だけでなく、OEM・ODMの展開にも力を入れる動きもある。これは御木本製薬だけでなく、製造施設をもつ他の老舗化粧品企業にも同じ動きがみられ、例えば、数十年の社歴をもつ某中堅化粧品企業では、グループ売上の半分以上が既にOEM・ODMを占めるようになっている。「販売員の高齢化は避けられず、かといって新規の若い世代の販売員が入ってくるわけでもない。訪販部門の縮小はバブル期以降続いているが、今後はそれがさらに加速する。事業体としては、現在の資産(=製造施設)を活用して次のステップへの道筋を探るというのが順当」(中堅化粧品企業幹部)。

高齢者向けサービス
成長市場に参入

 視点を変えてみると、長年培ってきたノウハウを活かして成長市場への参入に取り組むケースもある。ナリス化粧品では、2024年7月、化粧品業界で初めて機能訓練に加えて美容療法を受けられる地域密着型通所介護「ふれあ姫島」を大阪市西淀川区に開設。美容療法を受けられるデイサービス≠フ提供を開始した。同社は2014年に日本介護美容セラピスト協会を設立し、心と体の美容療法を創出。2014年6月からはビューティタッチセラピーの手法を用いてマッサージングトリートメントやメイクなどの「肌に触れるケア」をとり入れることで、主に高齢者の自立支援や生活の質の向上を目指し、全国でビューティタッチセラピストの養成と認定の講座を開催してきた。
 「ふれあ姫島」では、主にハンドセラピー・フェイシャルセラピー・フットケアセラピーを受けられるほか、メイクやネイル・アロマを楽しむことや、2024年3月から発売している超高齢者用スキンケア「モモテ」など、同社化粧品を試してから購入することが可能で、買い物に行く機会や化粧品を試す機会が少なくなった高齢者に、美容を楽しめる時間を提供している。超高齢化社会の現代、高齢者向けのサービスの需要は増加しており、特に健康寿命を伸ばすためのサービスは人気があり、成長が期待される分野だ。同社の「ビューティタッチセラピー」は、これまでも複数の高齢者施設で実施されてきたほか、自然災害の被災地でも被災者ケアの一環として行われてきた実績をもつ。
 「ふれあ姫島」ではまた、美容だけではなく包括的高齢者運動トレーニング理論に基づいたリハビリ機器での機能訓練をすることも可能で、健康と若々しさを提供することで、高齢者の自信を取り戻す支援を行っている。「きれいになって動ける身体づくり」を目標に、常駐する理学療法士のサポートにより、CGT(包括的高齢者運動トレーニング)に基づいたマシンやトランポリン平行棒を用いたトレーニングを実施。トレーニング内容はすべてデータ管理し、初回利用時以降、3カ月ごとに個別機能の評価を実施している。測定項目は、「握力」「5回椅子立ち上がり速度」「TUG(3メートル先のコーンまで歩いて帰ってくるまでの速さを測定するもの)」など。約半年の通所利用者の81歳女性は、握力の増加(138%)に加え、15秒程度だったTUGが10秒を下回るようになった。また、78歳女性は5回の椅子の立ち上がり速度が40%まで短縮するなど、多数の著効例が出始めており、利用者のやる気のきっかけとなったり、前向きな目標となっているという。

健康関連の新規
事業をスタート

 昨年30周年を迎えたアシュランは、先に挙げた3社とは異なるアプローチで新規事業への参入を進めている。化粧品事業を中心に、グループで事業領域の拡大を進めてきた同社だが、本社のある大野城市には、ハイグレードな施設とサービスを提供する施設「グランドエンパイアホテル」を運営。東孝昭社長の出身地である鹿児島県出水市では、「出水酒造」での焼酎づくり、宿泊施設「ホテル泉國邸」の運営、「出水農産」での農産物の栽培を手がけてきたが、このほど新たな事業としてグァバ茶ペットボトルの製造・販売を開始、2024年10月に「出水ヘルスウォータ株式会社」を設立した。出水酒造やホテル泉國邸と近隣の立地に本社社屋および工場を新たに建設し、グァバ茶の製造・販売をスタート。現在、テスト販売を行っており、準備が整い次第、多様な販売チャネルでの流通を予定している。アシュラングループとして健康関連産業へ参入するとともに、地域経済の活性化や雇用創出など、多様な角度から地域への貢献が期待される。

(2025年4月17日号参照)