「カスハラ」対策義務化、業界の対応は?

改正労働施策総合推進防止法が成立、来年施行へ
全事業者に対策義務化、都条例は今年4月施行



▲ダイレクトセリング企業の間でも、カスタマーハラスメントへの対応方針を策定、公表する動きが広まっている(写真はダスキンの対応方針公表ページ)

▲4月に施行された東京都カスタマー・ハラスメント防止条例は、業界団体に対して、業界に特有の特徴などを踏まえたカスハラ対応の「共通マニュアル」の作成を推奨
 顧客による悪質な迷惑行為等の「カスタマーハラスメント」(以下カスハラ)から従業員を守る対策を事業者に義務付ける、改正労働施策総合推進法が6月4日に国会で成立し、同11日に公布された。公布日から1年6カ月以内に施行される。国に先駆け、事業者が集中する東京都も同趣旨の条例を4月に施行した。他の業界と比較して、消費者相談対応に力を入れている事業者の多いダイレクトセリングにおいても、カスハラは長年の悩み。すでに対応の方針・対策に着手済みの事業者は少なくないが、改正法や条例を受けて、取り組みが一層進むことになりそうだ。
 

「社会通念上、許容範囲を超えた言動」

   3月に国会に提出され、6月4日に成立した改正労働施策総合推進法。1966年に旧雇用対策法として施行され、労働市場に関する基本法に位置付けられてきた。近年の改正は20年、職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)対策を大企業に義務化。22年に対象を中小企業に拡大した。
 今改正の柱となるのは、カスハラ(カスタマーハラスメント)対策と、求職者等に対するセクハラ(セクシャルハラスメント)対策の義務化。後者は、就職活動中の学生やインターンシップ生等がセクハラに見舞われる問題の解決が目的とされている。
 一方、目玉と言えるカスハラ対策義務化。パワハラ対策は20年改正で義務付けられ、セクハラ対策は男女雇用機会均等法等を中心に対応が図られてきたが、カスハラ対策は法の網から抜け落ちていた。義務化対象の事業者に売上や従業員数等の基準はなく、全事業者が含まれる。民間のみならず自治体にも対策を義務付ける。
 改正法は、以下の3要素を満たす行為をカスハラと定義。@顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者によって行われA社会通念上、許容される範囲を超えた言動でありB労働者の就業環境を害するもの――とする。

都内で事業を行う法人・団体等対象

 事業者に求められる対策の中身は、今後、労働者側と雇用者側の代表が参加する有識者会議で議論される。ここでの提言を踏まえて、厚生労働省が指針にまとめる。
 現時点では、カスハラが起きた際の対応マニュアルを明確化することや、従業員からの相談を公正・公平に受け付ける社内体制の整備などが盛り込まれる見通しという。
 すでに対策が義務化されているパワハラやセクハラと同様、仮にカスハラに対策を取らなかったとしても罰則はない。しかし、国の調査によって対策が不十分と見なされれば、是正の指導・勧告の対象。それでも従わない場合は社名公表の対象になる。決して疎かにできない。
 そして、国に先駆けてカスハラ対策の努力義務をスタートさせたのが東京都だ。昨年10月、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が都議会で成立。今年4月に施行された。
 条例でカスハラ防止の取り組みを求める事業者は、都内で事業を行う法人・団体(行政機関含む)・個人。カスハラは、暴行、脅迫、暴言、正当な理由がない過度な要求といった「著しい迷惑行為」であって、就業環境を害するもの――と定義している。国の改正法とほぼ同じ考え方が垣間見える。

「組織として毅然とした対応を」

 改正法の指針作りはこれからだが、同条例はガイドライン(指針)を昨年12月に公表済み。ここで、カスハラを防止するために事業者が取るべき「措置」の具体的な中身を示している。

(続きは2025年6月26日号参照)