「書面電子化」制度、預託法でも空文化 実施事例の確認ゼロ、本紙の情報公開請求で判明

調査できた事業者の半数、預託法自体を認知せず



▲21年の法改正は、特商法に加えて預託法にも「書面電子化」制度が導入されたことから、消費者庁が実態調査に着手(写真は報告書)


▲預託法で電磁的交付が可能となったことを知っていた事業者は確認されず、半数は預託法自体を知らなかった(写真は報告書からの抜粋)
 「書面電子化」制度は預託法でも空文化=\―。23年6月より可能となった、特定商取引法の法定書面の電磁的方法による交付。しかし、本紙アンケートや消費者庁の実態調査から判明した通り、消費者保護の名目で複雑すぎる手続きが設けられたがゆえに、実際に実施するダイレクトセリング企業はほとんどいない。これとほぼ同じ状況が、やはり電磁的交付が可能となった預託法でも起きている。情報公開制度に基づく行政文書開示請求で本紙が得た調査データから分かった。ただ、現に預託取引を行う事業者は一桁に留まる上、「書面電子化」制度を知る事業者は皆無。法規制の対象となることさえ理解していない事業者が半数に及ぶなど、DS業界と大きく異なる実情も浮かび上がる。

 

わずか6事業者
調査対象を拡大

 預託法の書面電子化制度は23年6月に始まった。2000億円超の甚大な消費者被害を生んだジャパンライフ事件を発端に、21年改正で販売預託商法を原則禁止。同時に電磁的交付を可能とする仕組みが盛り込まれた。法改正で書面電子化制度が導入され、スタートしたタイミングは特商法と同じだ。
 実態調査は消費者庁の委託事業で行われ、昨年12月にNTTデータ経営研究所が685万円で落札。今年2月に調査が行われ、3月末に報告書が提出された。
 調査の目的は「契約書面等の電子化に係る事業者の取組状況について把握し、調査結果を今後の法制度検討に活用すること」(報告書より)。NTTデータ経営研究所は2年前、同様の目的で行われた、特商法の書面電子化制度の調査業務も請け負っている(24年9月5日号・19日号参照)。
 報告書でまず注目されるのが、預託取引に該当する事業・サービスを提供している事業者の数だ。WEB検索によるデスクトップ調査と、シェアリングエコノミー協会(以下協会)の会員事業者279社の調査によって把握された数は6社。「ごく少数」に留まったため、消費者庁と協議の上、過去に預託取引を行っていた事業者を調査に含めたものの、その数も8社に留まった(うち2社が協会会員)。
 協会を調査対象に含めたのは、該当の事業・サービスが「シェアリングサービスの一種でもあると考えられる」ためとされている。

サイトを目視調査
記載「確認できず」

 この計14社を対象に、アンケート(WEB/メール)とヒアリング(オンライン/電話)を実施。このうち回答が得られたのは8社で、残り6社からは「調査への協力を得ることができなかった」という。

〈解説〉
預託取引業の遵法意識、DS業界と格差
電子化導入の経緯、特商法以上に藪の中

 消費者庁の実態調査で明らかとなった預託法の書面電子化制度の実情は、預託取引という取引形態自体の無秩序ぶりを浮かび上がらせた。21年の法改正で電磁的交付が可能となったことは特商法と共通する一方、遵法意識と業界の規模のいずれも、ダイレクトセリング業界と比べるべくもない。
 調査で確認された預託取引事業者はわずか6社。過去に事業を行っていたケースを含めても計14社に過ぎなかった。調査に応じた事業者は零細、小企業が多くを占めたという。まずこの時点で、業界と言えるほどの規模を形成していないと言える。
 そして、預託法で書面電子化制度が導入されたことを認知していた事業者は1社も確認できなかったとされた。DS業界において、実際に電磁的交付に乗り出している事業者はほとんどいないものの、特商法に書面電子化制度が導入されたことを知らない事業者はいないはずだ。
 さらに、調査に協力した8社中4社は「預託法について認知をしていなかった」(報告書より)とされている。この4社の勧誘・契約行為が預託法に触れていたかどうかは不明。しかし、自社の事業を縛るメインの法律を理解していなかった可能性は非常に高いと考えられる。


(続きは2025年9月4日号参照)