シリーズ・特商法改正の行方 消費者庁 取引対策課「報告書」、異例の反発

日弁連「多くの疑問点」、新長官「真摯に受止め」
「脆弱性」の捉え方、消費者委答申と「齟齬」



▲取引対策課長の懇談会「デジタル社会における消費取引研究会」の報告内容に対して、日弁連は、消費者保護の観点から複数の問題点を指摘する意見書(=写真)を提出
 消費者行政の司令塔を自認する消費者庁で特定商取引法を所管する取引対策課。法執行の最前線と言える同課がまとめたある報告書が物議をかもしている。報告書は、社会の急速なデジタル化が消費者取引に与える影響等を経済的事象も踏まえて議論し、今後の消費者取引政策のあり方を提言。この内容が、消費者保護からかけ離れた視点に基づいており、特商法改正の必要性を否定するとして、消費者系団体の猛反発を受けている。消費者取引における「消費者の脆弱性」をめぐる考え方が、消費者委員会の答申と齟齬することも拍車をかけている。7月に着任した消費者庁長官は、定例会見で前長官の示した方向性を事実上修正するかのような考えを述べた。
 

課長の「懇談会」

   「研究会報告書には多くの疑問点があり、かかる報告書を理由に特商法の改正を先延ばしすることは適切ではない」「消費者庁は(中略)消費者被害に対応するため、政省令やガイドラインの見直しを含む特定商取引に関する法律等の改正を速やかに行うべき」。日本弁護士連合会(日弁連)は9月18日、件の報告書の内容を批判し、特商法の改正を求める意見書を消費者庁長官に提出した。
 「多くの疑問点がある」とされた報告書は、昨年6月、取引対策課の伊藤正雄課長(当時)が自身の「懇談会」として立ち上げた「デジタル社会における消費取引研究会」(研究会)の議論を整理したものとなる。「デジタル社会における消費取引についての対応のあり方に基軸を据えること」(報告書より)を目的に、計9回の会合がもたれ、今年6月に公表された。
 発足の理由は、デジタル化の急速な進展にともなうEC取引の広がりと多種多様化に法規制が追い付いておらず、悪質事業者の取り締まりが困難になっているというもの。伊藤課長は初回会合で「デジタルは横串的で境界がない世界」「そこにラグが発生する。そこをどう埋めていくか」と述べ、デジタル社会における効果的対応策について議論を求めた。

経済に「過度に配慮」

 この報告書が何故、消費者系団体から大きな反発を呼んでいるのか。一つが、法規制が消費経済市場に与える影響に「過度に配慮」(日弁連)した内容を含むというものだ。
 報告書は、デジタル社会における消費者取引政策の「基軸」について、「自由主義国家における原則と例外措置に基づく考え方に立って、極力私人間の契約・取引に対して国家が干渉せず、個人の意思を尊重する原則の下での制度設計とすべき」と言及。また、「デジタル取引のリスクを過大に評価し、リアルでの取引以上にケアを強めると自主性や社会進展のための挑戦をより損なわせる側面がある」とした。
 これに対して、日弁連の意見書は、デジタル社会の進展が消費者に様々な恩恵をもたらす面がある一方で、デジタル分野の消費者被害を放置すれば進展を逆に阻害しかねず、「消費者法制の更なる充実が強く求められている」「(報告書の)方向性に拘泥することなく、飽くまで消費者保護を基軸として行われるべき」と強調。
 消費者保護と公正取引の確保には「一定程度普遍性のある規制を導入することが不可欠」「『消費経済市場への影響』に過度に配慮して消費者保護や市場の公正性を劣後させることには慎重であるべき」と求めた。

「肩書」除外、要求

 消費者保護が後手になりかねないとの危惧は、9月12日に同趣旨の意見書を出した特定商取引法の抜本的改正を求める全国連絡会(連絡会)も共通する。

(続きは2025年10月16日号参照)